紙を一度入れなおして、フリッカーしていた印刷のボタンを押し続けた。すると誰か知らない人の死亡通知が流れてきた。「ねえ、これ見てごらんよ。」とガールフレンドのAさんに見せる。「ああ、やっぱりその話ね。」ちょっと間をおいて「でもどうしてこの紙があるの。」「どうって事ないよ。印刷ボタンを押し続けただけさ。」
Aさんは数日前からFAXが壊れたと大騒ぎしていた。「ローラーがうんともすんともいわないのよ。A4の紙をおしこむのだけれど全然動かない。」「修理を頼むのかい。」「なおるかしら。」「なんとも言えないな。」「教会の雑誌の編集を押し付けられちゃって、家にFAXがないと困るのよ。新しいのを買うかもしれないからあなた一緒に見てよ。」見るだけの癖に、女性は買い物が本来好きなのか、荻窪に井荻に数店つきあわされた。
そしてめでたく今を迎えたのである。「マニュアルは読まなかったのかい。」「ごちゃごちゃ、どこに書いてあるか分からないわ。でもどうしてかしら・・・・。JCOMの人が押したときにも全然動かなかったのに・・・。あなた家に帰ったら私にFAXしてみてよ」いまだに信じられないという顔である。私はなかばあきれ、なかば得意になる。そしてひそかに「オンナはどうしこ機械に弱いのだろう。」とつぶやく。
ところが機械というものは壊れるものらしく、今度は私のケータイが調子が悪くなった。電源が入らないから電池がなくなったのだろうと一晩充電した。ところが一向に電源が入らない。あわててマニュアルを見る。「強い衝撃を与えたり、押し付けたりすると故障の原因になります。」そういえばスポーツクラブに持って行ったが、その際バッグに入れっぱなしにした。あれがいけなかったのかなあ。
私がケータイを始めて持ったのは3年前父が亡くなる直前だった。「何時、何が起こってもおかしくない。兄貴もケータイを持てよ。」と弟に勧められて一番安いのを買った。最初弟からかかってきたとき、よく聞こえなかった。「もっとはっきりしゃべれ!」「しゃべってるさ。」そんなやり取りがあった。スイッチを切ってから、ケータイは正面に見据えてかけるものではなく、耳におしつけて使うものだと気がついた。
そんな風だからほとんど利用しなかった。そのうちに正体不明の電話が入りだした。どうやらそれがエッチ電話で、うっかり出るととんでもない請求がくると知った。そこで途中から一切出ないことにした。旅行などどうしても必要なときは、あらかじめ打ち合わせておいて、その期間だけでることにした。
生命保険を解約したところ、何度も電話がかかってきた。一切出なかった。後から担当の古西さんという人から手紙で「何度電話しても出ていただけなかった。それに小野さんのケータイの留守電は一杯ですよ。」と知らされた。不動産屋と証券会社は、何度か電話してきたが出ないものだからあきらめてしまった・・・・。
しかし世の中の進歩は早い。どうもケータイなしでは済まされぬように思えてきた。そこで昨年ヴォーダフォンで写真も撮れる最新機種を買い、これから使うぞ、と気持ちも新たにした。我が家にあった古い電話帳を入れたり、日程表を入れたり、写真を撮ったり、小型電卓として利用したりしているうちに少しづつ慣れてきた。
その矢先の今回のケータイ故障事件である。保証書がなくて大騒ぎしたが、それはどうにか見つけた。さあ、これを片手に機械をヴォーダフォンに持ち込んでやろう。しかし動かなくなった、とは心配だ。いままでいれた写真やらデータやらのメモリーが消えてしまうのではないか。それに修理や交換に日にちがかかると、よくかかってくる何軒かには連絡しておいた方がいいだろうか。心配はつのる。
そして、今日。眉毛をさかだて、渋い顔をした私は、バッグから件のケータイと保証書を取り出した。ぼそっと言った。「これ、動かなくなったんだ・・・。」
ところが店員氏が手に取ると、まもなくチャラチャラと音がしだした。画面にはヴォーダフォンのマークに続いて、カバーに使っていた椿の写真と時間が現れた。
「お客様、電源が切れた場合は出すね。パワースイッチを少し長く押していただきますと電源が入ります。」「・・・・・・故障じゃないのか」「ええ、正常でございます。」引っ込みつかぬから、何もいわずにバッグに押し込んで店をでる・・・・くそっ!オトコも機械に弱いかな?
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