286「インコの死」(8月3日(火曜日、晴れ))

「葉月も土くらいかけなさいよ。」長女が目に涙を浮かべながらヒステリックに言うと、小さなバッタをおいかけていた孫の葉月はあわててしゃがみこむ。
私は所在無く、小さな木切れを見つけてきて「これでも立ててやったら・・・・。」卒塔婆代わりである。「何か書くかい」と聞くが、それはいいらしい。かわりに「お線香を上げなければ・・・。」とあわてて仏壇に取りに行く。
「お花も供えないと・・・。」ちょうど紫色のムクゲの木が満開、台所にあった料理用はさみで、葉月がジョキリと枝ごときりとり無造作にさす。長女はその間に木の下に転がっていた石を見つけ出し、卒塔婆代わりの前におく。
長い長女のお祈りが終ったあと、次女、葉月、私の順に手を合わせる。
「しめやかな葬儀」を終えてこちらは「まあ、よいけれど、玄関前に鳥の墓というのはどうしたものかねえ。」と思案投げ首?

スポーツクラブから戻り一服していると、次女から電話で「お父さん、今日いる?お姉ちゃん、インコが死んじゃって、ものすごく落ち込んじゃっているのよ。庭に埋めてあげたいから、三人で行きたいのだけれど、いいかしら。」突然の話だが、どうせひまな身、「いいよ。」と答える。
1時間足らずでやってきた。少し見ないうちに急成長の葉月は9歳、もう145センチもあるとか、おじいちゃん、おじいちゃんと跳ぶようにやってくる。箱に入れたインコを大事そうに抱えた長女は、大分泣いたのかはれぼったい目をしている。その箱をあけると件のインコは、黄色でちょっと派手やか、3ヶ月前に購入、朝晩可愛がっていたらしい。懐にいたり、勝手に寝床に忍び込んできたりしていたらしい。

この辺になると次女の話になるが「お姉ちゃんは葉月が学校でだんだん長く過ごすようになって一人の時が多くなってきたのよ。そこにあのインコ、葉月の葉をとってリーフというんだけど、そのリーフと毎日過ごしていたらしいの。ところが昨日葉月がそれを寝床でおしつぶしてしまった。娘のやったことだし怒るに怒れない。でも、ものすごいショックだった。私も仕方ないから今日は半休とってなぐさめにいったのよ。」

終ってせっかくだからと井荻駅に出て喫茶店でお茶とケーキを楽しみ、3人をバス停まで送って一騒動終る。父、母、亡妻の眠る仏壇に,長女たちが今日は格別に沢山お線香をそなえ、すっかり線香くさくなった部屋に戻る。ここは私の寝室でもあるんだぞ。
しかしこういう事件で娘が泣く、というのは分かるけれど、親が泣き、娘はけろっとしている、というのはどう解釈したものだろう。

便利な時代、インターネットで少し調べる。そこで少し参考になった話。
「空の巣症候群」は、母親中心であった家庭が子どもが独立に近くなり、夫も多忙な毎日を迎え、母親が愛の巣が空っぽになったと感じ、空虚感、孤独感、抑うつ感などに苦しめられる症状を言う。「これまでの人生は一体なんであったのか」「このままでよいのか」とむなしい気持ちになり、独りぼっちになったと落ち込む。また更年期と重なるためのぼせ、発汗、動悸、食欲低下、疲労感、イライラ、不安感、不眠など心身の不調を訴えるようになる。女性に多いものだが、逆に男には「燃え尽き症候群」というのがあり、それと症状が似ている。対策は
@完璧癖をもたない。A時には手を抜いて気分転換してみるB夫に頼り過ぎないC子育てがすべてという生き方を見直すD他人の評価ばかりを気にしないE母親として以外の自分の役割について考えておくF若いときから趣味を持つGプラス思考ができるよう心がけるH若い人流の冒険心や自分主義を見習うI不調なら薬物治療やカウンセリングを受ける。
長女の場合、専業主婦、夫はかなり忙しい、小学校2年の葉月は、独自の世界を作り出し始めている。年齢はまだ35歳、更年期はまだまだ先で、女ざかりではあるけれど条件に近いところも見られなくもない。

一応頭の隅に入れておいた方が良いかな、と感じ、この次また荻窪で飯でも食おうか、今度はフランス料理でなどと声をかける。

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