313「北朝鮮問題の考え方」(11月30日(火) 晴)

本橋哲也「本当はこわいシェイクスピア」を読んでいる。こういう本を読む前提として話題になっている作品を読んでいないと話にならない。この書で扱っているのは「テンペスト」「ヴェニスの商人」「オセロ」「アントニーとクレオパトラ」
本全体の評は別に書くけれど、「ヴェニスの商人」でなるほどと思う記述にぶつかった。
「シンドラーを英雄として祭り上げることが、イスラエルという国の是認にずらされる。端的に言ってこの作品(=「シンドラーのリスト」)は、イスラエルによって植民地化されているパレステイナ人という実体を排除することを通して、民族の記憶という民主主義的言説にあざやかに回収されるのである。悲劇は容易にプロパガンダに転換しうる。政治的にどんな立場をとるにせよ、私たちがユダヤ人問題を考えようとするとき、もっともすべきでないことを、この映画は実践し、かつ絶賛されたのである。」(62-63p)

国家はいつでも善玉にも悪玉にもなりうる。

北朝鮮の拉致問題が一向に解決の兆しをみせていない。日本はイスラエルあるいはユダヤ人を真似することなく、平和主義国家をめざすべきと思う。
日本政府にとって北朝鮮は政府間の戦時賠償問題において唯一の未解決国である。北朝鮮との国交正常化交渉は89年竹下首相が「反省と遺憾の意」を評し、90年に自民党・社会党・朝鮮労働党の間で3党共同宣言がまとめられた。
「過去に日本が36年朝鮮人民に与えた不幸と災難、戦後45年間朝鮮人民が受けた損害について、十分謝罪を行い、償うべきであると認めた。」
しかし日本はすでに65年に韓国と「日韓基本条約」を締結しており、その中では相互に国家賠償の請求権を放棄して、日本が経済協力を行うというものだった。北朝鮮側は謝罪の意を込めた国家賠償を請求し、譲らなかった。
そうした中で87年の大韓航空機事故で実行犯の金賢姫の証言により、日本人教育係「李恩恵」の話が浮かび上がった。事実関係を照会したが、北朝鮮側が態度を硬化して会談が決裂した。ようするにそこに日本側が北朝鮮の補償要求に譲歩せず、北朝鮮も拉致問題を頑として認めなかった。

その後村山訪朝団をきっかけに2000年4月から日朝会談が再開される。さらに小泉首相の電撃訪朝と日朝ピョンヤン宣言である。この結果一部の人であるが帰国できたことは新聞の報道の通りである。
この宣言は実によく出来ている。拉致問題は非常に抽象的な書き方をしている。
「また、日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じる事がないような適切な措置をとることを確認した。」
一方で国家賠償という看板はないものの、謝罪と経済協力についてははっきり書いている。
事件の「重さ」を比較し、現状を考えれば止むを得ないところだろうか。
「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表現した」
「国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金援助、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした。」
一方でこの宣言は両国のこれからについて最重要なことを宣言している。
「双方は、国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した」

日本側が妥協しすぎているとの反論はあろうが、とにかくこれで双方が意見の一致を見たのである。北朝鮮側も「国家賠償」という看板を下ろしたのである。
それから2年近く、拉致問題で北朝鮮側が真実を隠しているらしいから、先に進めぬ、と日本は主張している。北朝鮮側から見れば、おい、おい、といいたくなるのも無理はない、と感じるのである。大体70年代に起こった拉致問題は、当時両国が戦争状態に近かった状態であったことを考えると止むを得なかったとも言えなくはない?

拉致問題の真相追及は重要だが、一時も早く国交を正常化すべきである、と考える。そうする事が核問題、ミサイル問題など危険な要素を抱える隣国ととにかくもうまくやって行く方策ではないか、と考える。
私の意見は拉致された人たちのことを考えれば不謹慎かもしれぬ。しかし小泉首相が「靖国だけが日中間の問題ではない。」というように、「拉致問題だけが日朝間の問題ではない。」とも言えるのではないだろうか。さらに一部経済制裁を加えるべきだ、といった意見もあるが、いまさら妥当とは思えない。

註 ご意見をお待ちしています。
e-mail agatha@bekkoame.ne.jp
home-page http://www.bekkoame.ne.jp/~agatha