名前が分からないときによぶ女性のよびかたについて、いつも思うのだけれどフランス語はいい言葉をもっている。「マダーム!」
八十のおばあさんでも「マダーム!」、逆に三十以前なら「マドモアゼル」と呼べば、まずおこられることはあるまい。
英語だったらなんと言ったら適当なんだろう。「ミセス!」か「レイデイ」か。
しかし日本語にはうまい言葉がない。英語やフランス語を訳してもさまにならない。「こんにちは、貴婦人!」きっと鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするに違いない。
それでしかたなく「おばさん。」
「おばん」でも、「おばあさん」でも、まして罵倒に近い「ばばあ」でもないのだから、私たちは十分に敬意を表しているつもりだけれど、女性にはひどく受けが悪い。
いつか、女性との集まりで「なんとかおばさんがこういっていたけれど。」と発言したら、内容はそっちのけで「おばさんなんて失礼よ。」といきなりかみつかれた。「じゃ、なんて呼べばいいのさ。まさか、お嬢さんじゃないだろうが・・・」というと、向こうも少しつまったが「名前よ、名前をよべばいいじゃない。」と大声でわめかれた。
「奥さん」というのもあるかもしれないが、行かず後家だったらどうする?
とにかく女性は「おばさん」という言葉に、なにやら激しい抵抗を感じるらしい。「マダーム」は上品、優雅、おしとやか、香水の匂い、「おばさん」は女性機能喪失、たしなみ忘却、わりこみ、大根のぬか漬けのにおい、そんなものなのか。
そういえば私の高校同期の仲間はメールネットを持っているから時々変わった意見が飛び込む。いつかそこで自分の妻の呼び方が問題になった。あれもやさしいようでなかなかむずかしい。「おい。」は多分失格なのだろう。名前を呼ぶのはニュートラル。「お母さん」では子どもたちと一緒だ。ママと英語読みにするのはいいけれど、私は適当な日本語がないからそちらに避難しているに過ぎない、と感じる。「愛しの妻よ。」なんて呼んだら、気味悪がられ「亭主もいよいよぼけが進行したか。」などと・・・。
戦後はいざしらず、それまで日本は男性優位時代がえんえんと続いていた。女性の地位を平等に認めていなかった。その名残でいまだにしっかりした呼び名がさだまらないのかもしれない。それにしても呼び方というのは難しいものですね。大げさに言えばその一語にその国の歴史と文化が反英しているようにも感じられる。
最後に一言、今日はむかっとした。腹がたった。
100円ショップで、クリップを買おうと品定めしていたときのことである。
脇からおばさん風がぬっと現れていうのである。
「すいませんけれど・・・」そこまではいい。問題はその後だ。
「そこの定規をとらせてくれませんか。おじいちゃん!」
おれはまだ63歳、髪はくろくふさふさ、皺もそんなによっていない!足腰しゃんとしている!チンチン立つ・・・・かな?
この野郎、と思ったが一瞬声がでなかった。いや、でたけれど、小さな声だったし、払いのけようとする手がでなかった。「何をいうんだ。このおばん野郎!」
おばさんは必要なものをとるとさっさとレジに向かっていった。
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