373「ホ、ホー、ホータル飛んで来い!」(7月9日(土)曇りのち雨)

庭も部屋もすべての明かり消される。現代人は闇になれていない。それだけでワクワクする。闇の中に一点、二点小さなあかりが上に下に動く。毎日大量のホタルを放つという。
「うかい鳥山亭」は奥高尾にある。合掌造りなど昔風の家が舞台、庭には川が引き込まれ、朱塗りの橋がかけられ、客は石づたいに鬱蒼とした木々の中を宴席に向かう。7月はホタル狩りと称し、ホタルを愛でながら会席料理風を楽しんでいただくという趣向。今日はあいにくの雨なのに京王高尾山口からの送迎バスは補助椅子をつかうほど込みよう、なかなか商売がうまいと感心する。

「お母さんがいつかお前たちを「うかい鳥山」に連れて行ってあげる、言っていたのけれど、実現する前に亡くなってしまった。」と次女にささやかれて、今日は長女一家、次女夫婦とともに会食ということにあいなった。孫娘は「可愛いお母さんと・・・」と長女を持ち上げると「お母さんじゃなくて孫でしょ。」とすっかりおしゃまになっている。
夜になって本格的な雨になってきた。「雨ですからホタルがあまり光らないかもしれません。これをお土産にもっていってください。」と事前に係員が3匹ほどホタルの入ったビニール袋を持ってきた。しかし結構光っている。なかにはフラフラと舞い上がるが、急降下するものがいる。雨にたたきつけられるからだろうか。

ホタルというとゲンジボタルが思い浮かぶ。しか実際には何百種類いるのだそうだ。今日飛んでいるのはヘイケホタルである。6月初旬はゲンジボタルだが、末ごろから変わるのだそうだ。

「東京ゲンジボタル研究所」等のサイトにホタルの事が詳しい。
ホタルは卵、幼虫、蛹、成虫の完全変態を行う。大抵のホタルは陸地でこれを行うが、ゲンジボタル、ヘイケホタルなどは、幼虫になると水中にもぐって生活をする。えさはカワニナという巻貝の肉を溶かして食べる。6,7月ころ産み落とされた卵は、こうし幼虫時代をすごした後、翌年4月頃岸に上がり、土の中にもぐり、繭をつくり蛹化する。こうして普通は1年で成虫になるわけだが、豊かな自然がないと生育できない。
羽化後のホタルの寿命は最大で15日、普通はオス5日、メス7日程度の命、その間に交尾する相手を求めて、光を強くしたり、弱くしながら乱舞する。光の源となる酵素(ルシフェリン)と発光を促す酵素(ルシフェラーゼ)が、体の中の他の物資と酸素と酸化反応をして光を出すとか。人間はそれを風流などといって愛でるのである。「ホタルは雄も雌も光を発するの。」「雄だけさ。」と答えたが、雌も光を発するが、少し弱いとか。

ホタルを私が始めて意識したのは終戦直後長野に疎開していたときだった。何かの折に母がつかまえ、それをねぎの中にいれ、家の中につるした。真っ暗な中で一点ぼんやりと光る明かりに喜んだのを覚えている。それ以来、何度か見かけるがこうして落ち着いて鑑賞するのは久しぶりだ。

昔のことを考えながら鑑賞している内に時間が経過、再び明かりがつけられた。
「このホタル、持って帰るの。」「うん、そうするといい。もっとも明日になればみな死んでしまうからお墓を作らないとね。」それを聞くと孫娘は「じゃあ、ここで離して行こうかしら。」ビニール袋の口を切るが、飛んでゆかぬからそのまま欄干に乗せておく。

すっかりいい気持ちになって帰還。ホタルの飼育方法はほぼ完全に確立されている。全く人工的に作り、演出された空間なのだけれどもそれはそれで楽しい。料理は地鶏の炭火焼を中心になかなかおいしかった。皆さんも如何ですか。

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