386「真夏の夜の夢」(8月24日(水)曇り)

私たちは夜が大好き、天窓からさす月明かりの下で、フェロモンをまきちらしながら、彼は私に甘くささやいた。「愛してるよ」「愛してるわ」チュッ、チュッ、チュッ・・・・「幸せな家庭をつくろうね。子どもは何人欲しい?」激しいセックスをしたわ。互いに後ろ向きになり、あおむけになり、足を天にむけて・・・・。
それが終ると、彼はおいしいものを持ってくるとひとりで冷蔵庫にむかった。私は鏡台の陰に隠れて身づくろいをしていた。その時だったの。突然、あたりが光でつつまれた。彼が一目散でドアのむこうに飛び込むのが見えた。「ぎゃおう・・・・・」この世のものとも思えぬものすごい悲鳴。あの人たちの中のムスメーという種族らしい。
ポータブルタンクがポッカリと空間に現れた。大変、タンクつきピレスロイド銃だ。ガビーン、ブキューン、シュー・・・。銃弾を体中に受けた彼が再び部屋にふらふらと戻ってきた。もう私のいる鏡台まで来る余裕はないみたい。

それにしても、私たちは、あの人たちになぜこんなに目の敵にされるのでしょう。よきお隣さんのはずでしょう。時々あの人たちのおこぼれに預かるだけで、モスキート族のようにチクったりすることもない。それなのに、あの人たちは遠くの森に潜んでいるビートルズ族なんかが好きで、私たちを嫌う・・・・とんでもない差別だわ、いったいこの世の正義なんてどこにあるのかしら・・・・。
私たちの数が多いからなのかしら。確かに日本に50種余り、世界には3500、ヤマートだの、チャバーネだの、私の属するクーロだの。でもビートルズだって沢山種族がいるはずだわ。茶や黒で地味すぎるからかしら。大きすぎるからかしら。でもビートルズはみな黒いし、しかも大きいほうが好かれるんですって。立派な竹の家と、野菜や蜜などの食料が支給され、可愛い、可愛い、と声までかけられるというじゃない?

それにあの人たちは、どうしてあんなに我々を襲う沢山の武器を考えつくのかしら。銃タイプのほかに、ネバネバハウス、放置毒物、毒ガス発生装置、インスタント武器まで登場するのよ。紙製の棍棒を振るうかと思えば、ソープ爆弾、アルコール爆弾・・・、全くやっていられない。今度の衆議院選挙みたいに何でもありの時代!

彼に最後のときが来た。部屋の中央に出た彼にさらに銃弾が浴びせられた。痙攣し、ふらつき、ひっくりかえり、やがて動かなくなる・・・・。でも私はでてゆくわけにはゆかない。天から白い布のようなものがふってきた。それが彼を包み込み、彼は天空にあがる。昇天!遠くでザ、ザ、ザと水の流れる音。この世からの彼の消滅。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、色即是空、空即是色、チーン。

私のほおを涙が流れる。しかし泣いているゆとりはないんです。私はこれから彼の子どもを産むの。産院も贅沢なことは言わない。逆に私は、暗くじめじめしたところがあれば大満足で、乾燥したところは嫌い。私たちの中には子どもを直接産む者もあるけれど、クーロ族は卵から育てる。孵化するとやがて10回前後の脱皮を繰り返しシャバにでてくる。他の種類で蛹になるものもあるけれど、私たちの子はならない。一つ見つけたら三十いると思え、というのは一度に産む卵の数がそのくらいに及ぶかららしい。

え、一体お前は何者だ、ですって?まだ分かりませんか。有史以前からの人類の友、昔はコガネムシと呼ばれたこともあったのですよ。コックローチの日本名・・・・漢字で書けますか。書けるあなたは天才か、あるいはどこかの国の総理のよう変人か?

註 タンクつきピレスロイド銃のことをコックローチジェット噴射、ネバネバハウスをゴキブリホイホイ、毒ガス発生装置をバルサンなどとあの人たちは呼んでいるようです。ザ、ザ、ザと水の流れる音、とはなんだ、ですって?あの人たちは私たちの死体処理場のことを水洗トイレって呼んでいるんです。

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追記 筆者旅行のため、数回、通信を休みます。