390「今夜はオールナイトで」(9月16日(金)晴れ)

トルコ旅行の時差ぼけはもうなくなっているはずなのに夜よく眠れない。
何と8時に床に着く。早すぎると思う向きもあるかも知れないが、私の場合、4時過ぎは起床、それを考えればそう無茶苦茶でもない。
8畳の和室に一人・・・・というより36坪の家に一人。天井から太い手が出てきて私をつかまぬかと恐れた時もあったが、最近は度胸がついた。

仰向けになって目を閉じる。何も考えないようにする。ところが考えないようにすることほど難しいものはない。年寄りの一人暮らし、悩むことなどないはずなのに、いろいろ妄想が浮かんでくる。しばらくすると右足が痛くなったような気がする。
若いときいろいろ工夫をした。頭の中に羊を想像し、一匹二匹と数えるのはよく知られている方法。いつか羊を「若い水着姿の女性」でやってみた。へその下が何か熱くなってきて余計にねられなかった。手の指、足の指に力を入れるというのもやった。あれも時には効果があったが・・・。物語を作るというのもある。山道を歩く。向こうから神様の一団がやってくる等々。でたらめに想像しているうちに寝付くこともある。

左に横むけになる。毛布を丸めて抱いてみたりする。そのやわらかさは母を、なくなったカミサンを、恋人を、時には今日バスで隣の席に座った人妻風美人を思い起こさせる。眠くなりそうな雰囲気だが、左足に乗った右足が重たく感じられる。これは反対にむいても同じことで、左足が重く感じられるだけだ。
仕方ないから今度は伏せる。背中を天に向けるわけだ。人妻風美人なら顔は下に向けキスを続けてもいいけれど、布団では味もそっけもない。しかたなく横に向ける。赤ん坊のようには行かぬ。上向きに比べて、横向きやあお向けは闇にむかっているようで、目をとじやすくなる。ますます眠くなりそうだ。しかし眠る前に首が痛くなる。最初は耐えられるが、だんだん首の骨がおかしくなるのではと思うほどになる。

またぐるっと回って仰向けになる。今度こそ眠るぞ!目を閉じる。手先も足先も全く動かさないようにする。私の身体は床と一体になったようだ。眠くなるに違いない。しかし今度は口の中に痰が出てくる。飲み込むのもどうにも気持ちが悪いから、テイッシュを取り出しふき取る。気がつくと枕元にテイッシュが散らかっている。
何もしない状態が続いて次第に眠りに入る。このように何かに中断されるとまた一からやり直しになるから癪に障る。もう一度あお向けになる。今度こそ、今度こそ眠るぞ。私は眠い、眠い、眠い・・・・いいぞ、いいぞ。

所がである。リッリーン、リッリーン、茶の間から聞こえる電話の音。ぶつぶつ言いながら立ち上がる。「もしもし」「もしもし、夜分恐れ入りますが、**寺ですが今回墓地を売り出すことになりまして・・・」がちゃんと切る。もっと恐れ入れ、この野郎!

まあ、しかし明日も大した予定があるわけではなし、一晩くらい寝られなくたって、どうということはあるまい、と開き直る。眠るために飲むべきものはナイトキャップ。ところがそれでも眠れずにいると、そのうち酔いがさめて、目がかえってさえてしまう。牛乳は心を落ち着かせるからよい、という人もいた。しかし今切らしている。仕方がないから台所にたちコーヒーを沸かし始める。テレビをつける。あいかわらず馬鹿馬鹿しい番組。チャンネルは多いのにどうしてこう見るべき番組がないのだろう。目はこうこうと冴え渡り、もうどうにでも勝手にしろ!

以下、繰り返し。その結果がこのエッセイのタイトルの如し・・・・。皆さんの場合はこんな夜をいかがお過ごしですか。

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