ビデオをまた借りてきた。「A列車で行こう」・・・・何となく聞いた事があった。
調べてみると、エリントン楽団のレコードで黒人歌手ベテイ・ローシエが歌ったものが有名なのだそうだ。
ニューヨーク、マンハッタン北部のハーレム、ここにちょっと高台風の高級住宅地シュガーヒルがある。「もしハーレムのシュガー・ヒル(あこがれの場所)に行きたいなら地下鉄のA列車に乗らなければだめですよ。乗り遅れたらハーレムへの近道をのがしてしまいますよ・・・・」というような歌詞がつけられているのだそうだ。
監督が荒川とよひさと聞いてすぐには思い浮かばなかったが、あの「四季の歌」、森昌子の「哀しみ本線日本海」、テレサテンの「つぐない」「時の流れに身をまかせ」などの作詞をてがけた歌謡曲界の大御所である。
昭和の面影を残すちょっと洒落たジャズクラブA Trainに、今宵も髭を存分に蓄えた常連の梅田(津川雅彦)が開店前に現れ、カウンターの指定席に着いた。健一(加藤大治郎)は、過去に傷をもつ江藤のピアノにあわせて、サックスの練習に余念がない。
ジャズの演奏に魅了されて客が、一人また一人と現れる。志賀の恋人洋子は、ある決意を持ってやってくる。元検事の平松は、既に現役を引退し、「人生の忘れ物」を捜すために大好きなジャズを聞きにやってくる。元銀行支店長のベテイは、今ではバーのママ、新しい店をオープンさせようと意欲を燃やしている。3人のヤクザが入ってきて、店の従業員ユキの恋人鱒見を待つ。やがて鱒見が現れ、ブツと金の交換・・・。専属歌手のアンナは、幼い娘を抱えたシングルマザー。そのアンナに健一は思いを寄せているようでもあるが・・・。さらに廃部がきまって監督の送別会を開くために集まったサッカー選手たち。
このジャズクラブは、そんなそれぞれの人生が結びつき、またほどけてゆく人間模様をうまく描き出している。なかなか思うようにA列車に乗れないひとたち・・・・。
「私は人生で多くの忘れ物をしてきた。もう取り返せないが、君はまだ若い。今からでも十分に・・・。」と絶望の淵に沈む会社員風を元気付けて去る平松。「カミサマは人生で三度微笑んでくれる。生まれたときと好きな人にあったときと好きな仕事に出会ったときと・・・。大半の人は最後の神様のホホエミには気づかない。私もそのチャンスを逃してしまった。」と自嘲気味に語るアンナ。そんな言葉もいろいろ考えさせる。
内田吐夢監督の「たそがれ酒場」(1955)という映画のリメイクなのだそうだ。もっとも「たそがれ酒場」は白黒で、舞台も新宿思い出横丁の小汚い酒場をモデルにした「ヤキトリキャバレー」だった、ということだが・・・。
場所が次々に変わる最近の映画と比べるとこの映画は少しとまどう。カメラはA-Trainというジャズクラブの内部、楽屋、店の入口に限定されている。限定された場所で、少しづつ垣間見られるエピソードに重点を置いている。かってこのタイプの映画が多く作られたのは、セットの数が少なくてすみ、制作費を安く仕上げることができたからとか・・・。
しかしエピソードの一つ一つに味がありいい映画、と感じた。
私は、自分の人生を振り返るような気持ちで、ウイスキーグラスを片手に二度も見た。レンタルビデオ(DVD)というのもなかなかありがたい。最新作でなければ、1週間で294円、その間、気に入れば好きなだけ見られる。そういえば、忘れ物もしたし、神様のホホエミにも気づかなかったなあ・・・・。
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