著者(青樹明子)は愛知県生まれのノンフィクション作家。早稲田大学文学部卒。1998年から北京放送に3年間勤務した後、現在広東衛星ラジオ放送キャスターである。その彼女が、見聞きし、肌で感じたことをベースに、ルポルタージュ風に現在の中国の問題点、日中の今後のあり方を提言する。
中国では人口増を恐れて一人っ子政策を取り続けた。その結果3億人の人口抑制が出来たとも言われる。しかしそのために、男の子を欲しがり、出来た子を思い切り甘やかす。
「小皇帝」が育った時期は、異常とも思える高度成長期。日本が4,50年かかったことをほんの十数年で成し遂げようというほどのスピードだった。一部の人々は、食うに困る時代から、パソコンも携帯も使い放題、休日には自家用車でレストランに行く暮らしに一気にジャンプした。それゆえに可能になったわけだが、戦争のことはもちろん、文革も天安門事件も記憶にない1980年代以降に生まれた甘やかされっ子が,今次々に社会に育ってゆき、現代中国社会を動かそうとしている。
2005年4月9日北京。最初は平穏に行われる予定だったデモが、凄まじい勢いとなり、「侵略を美化するな」「歴史教科書改竄に抗議する」「日本の常任理事国入り反対!」など叫びだし、暴徒化し、警察も止められず、やがて日本大使館を襲う・・・その様子がデモの参加した中国学生の手記という形で提示される。
さらに羅剛事件。「小原正太郎」と名乗る男が、湖南省中国人民ラジオ経済チャンネルに電話してきて、一言しゃべらせろという。彼は「シナ民族は教養がなく貧乏だ。」など徹底的に中国人を罵倒し始める。当局は番組の人気パーソナリテイ羅剛を解雇すると共に、犯人探しをする。ところが逮捕されたのは、れっきとした中国農民の男だった。さらに驚くのは、その後様々なネットに「日本人ならありうる」と書き込まれた・・・・。
第二、三章では今回のデモの主流となった一人っ子政策の世代の若者を捕らえる。交際能力にかけ、このままいけば度量が狭く、批判を受け入れにくい、利己主義者が現出しかねない。教科書を遊び道具にし、注意すれば「我有銭!」(金を払えばいいのだろう。)金さえあれば何をやってもいい、中国は強い、中国は大きい、中国はアジアの巨龍である、「小皇帝」は、そういう意識をますます強めてゆく。
しかしながら、中国の繁栄の陰に見られる負の部分を、第四章以下に描き出す。失敗したら次はない社会は、まるで「休むことなく踊り続ける人形」を思わせる。そんな中、身分格差は確実に存在する。地方から出てきた若者は、いかに優秀でも金とコネがないゆえに苦悩を味わうことになる。北漂族・・・地方からでてき北京で自分の居場所を見つけられず無為に時を過ごす、そういう若者が多い。うつ病患者が多く、自殺者が急増している。過労死するものまで現れた。そし結婚難。一途に尽くし、乗り換えられた男が女を殺す。
若者の日本企業離れが進んでいる。企業に勤めることは自分のキャリア向上のみが目的と考える若者、中国人を手先としてのみ使う日本企業、ギャップは大きい。そうしたなかで今後日本は、中国と今後どのように付き合っていったらいいのか。
著者は、まずは等身大の日本を見せ、交流を閉ざさない事が大事である、としている。
これを読んで日中関係の今後のあり方が分かるというわけではないが、中国の進もうとしている方向、問題点などがフィーリングでわかる好書と感じた。また私としては通信の349「中国の反日デモ」の答えを幾分ながら得たような気がした。日中関係に興味のある人には一読をお勧めする。
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