旅行記などを書くとき、いつも一人旅のような様子で書く。大抵誰かさんと一緒だが、迷惑がかかると困るから書かないだけだ。ところで今日は正真正銘一人。よく一緒に行くガールフレンドのAさんは、女友達とつるんで伊豆に一泊旅行にいってしまった。
しかしこれも気楽。時刻表を調べ、7時半にバッグ一つで我が家をでる。
わたらせ渓谷鉄道は、桐生から足尾銅山のむこうにある間藤(まとう)の間を結ぶ40キロ余りの鉄道である。いつか乗りたいと思っていた。平成元年から地元出資の第三セクターが営業している。終点の間藤は、山の中で東京との連絡はひどく悪いから、普通は、JRで行く場合は桐生、東武で行く場合には二つ間藤よりの相老が起点となる。
相老で1800円なりで1日観光券を買う。これでどこでも乗り降り自由。ここまで来たからととにかく間藤まで行って、適当に観光をしながら戻ってこよう、と考えた。列車は、眼下にわたらせ川の石ころだらけの河原を見ながらゆっくり進む。シーズンには観光用にトロッコ列車も走るそうだ。茶色いたった1両の、たった一人しか乗務員のいない車両が、たった1本しかないレールの上をトコトコと上ってゆく。所々に桜が咲き、花桃がつぼみをふくらませている。12時16分間藤着。
何もない無人駅。駅前を国道122号が走る。むかいに工場らしきものが並ぶ。もちろん喫茶店もレストランもない。バス停の看板と工場の名前から様子が分かった。
古川市兵衛が、明治10年ころから足尾銅山の開発を進め、この町に工作課や分析課がおかれ、発展し、一時は200戸を越えた。近くのバス停に、明治の終わりころの町並みと祭りの時の写真が貼ってあった。相当ににぎわっていたようだ。鉄道は、足尾銅山全盛期の大正3年に足尾線として開業し、7年に国鉄のものとなり、物資輸送などに大活躍した。足尾銅山は、その後、鉱毒事件などでゆれたが、発展を続け、一時は日本の銅の40%を産出するまでにいたった。しかし近年になって次第に銅の品位が下がり、ついに1973年に閉山した。それと共に間藤は、寂れてしまったようだ。今では「カモシカ見られる駅」として、うりだそうとしているとか。
戻りの列車に乗ろうと駅に戻ると20人くらいの団体客。中国語を話している。「台湾からです。日本語わからない。」彼等は帰りの一両の車両にあふれ帰り、列車がでると弁当を食いだした。ここまで外人が観光に来るとびっくり。
足尾銅山観光をしようと、通洞(つうどう)で降りる。トロッコでチョロチョロ行き、あとは坑道跡を徒歩で巡る。まだ水が滴れ落ちんばかりの、カンテラで照らし出す坑道は、なかなかの雰囲気。坑道は実は1200キロ、東京から博多くらいまでで、横に上に下にのびているとのことだが、見学するのは入口の700mばかり。
鉱夫の人形と共に、作業の様子が説明される。足尾は1610年に手がつけられ、江戸幕府の銅山となり、寛永通宝などの銭も鋳造された。古川市兵衛が開発を始めると、手掘りだったものが、最新式削岩機が入るようになり、やがて発破を使うようになる。しかし一日暗いところで同じ作業、硫酸銅廃液なども流れ出し、なかなかきつい作業現場、時折事故も起こったようだ。銅がとれるのは、周囲に沢山山があっても備前楯山1272mのみらしい。掘り出された銅鉱は粉砕され、重液選別法やフィンランドで開発されたという自溶精錬法などで精錬されてゆくようだが、説明は少ない。
2時5分の列車に乗る。原向(はらむこう)と沢入(そうり)の間あたりで河原を眺めると、ひどく大きな白い石がゴロゴロしている。車掌が、この辺が景色の一番いいところで石は御影石である、黙って取ってはいけない、などと説明している。沢入と次の駅神戸(ごうど)の間はトンネルを通るが、地図によると南側に草木ダムのある草木湖が広がっている。湖沿いを散歩して二つの駅の間を行くことも出来るが、乗り合わせた地元のおじいさんから「3時間!」と聞いてやめにする。
列車は民間経営であるから、なかなか商売熱心。沢入には列車を利用したレストラン清流がある。さっき銅山観光のおりにそばを食べたのでパスし、水沢まででた。ここは駅を降りるとそのまま温泉センターに繋がっている。陶器の河童の人形がむかえる広めの露天風呂もあり、なかなか気持ちがいい。ガラス越しに谷間を貫くよう、沢山の鯉のぼりが悠然と舞っているのが見える。
広間でオバサンたちが自慢の声を張り上げていた。「春に二重に捲いた帯、一重にまいても足りぬ秋・・・」何か歌詞が違うようだが、似合いそう。日本は平和である。
オレも少しカラオケが出来たらなあ、と思いながらジョッキをぐいとあける。桐生にでて一晩過ごしたいところだが、明日ヤボ用があり、後は帰るだけ、しかしなかなか楽しい1日になった。
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