高等学校同期のK君が鎌倉の喫茶店で恒例の絵の展覧会を開いている、というのでガールフレンドのAさんと出かけて行く。
彼は数年前交通事故で奥さんを亡くした。奥さんを亡くしたという意味では私と境遇が似ている。彼の行き方は私にとって他山の石。
小町通りにあるその喫茶店には昼ごろついた。K君はまたいつものように女性に囲まれて談笑している・・・と思ったら、件の女性たちは高校同期生ではないか。
私の高校の同期はいろんな会を開く。
「歩く会」これは1年に2度10キロくらい町を歩く。「山の会」これは2月に1度くらいやる。「つりの会」「囲碁の会」「ゴルフの会」その他いろいろ。
そういういろんな集まりで一緒になる女性たちである。
話は多いに盛り上がって楽しかった。しかし女性たちはこれから北鎌倉で食事をすると、20分くらいででていった。
彼が描くのはもっぱら若い女性である。数年前まで裸婦を多く描いていた。がっしりした裸婦が横たわっている図は、生き生きした肉の塊を想起させた。
今年は舞妓の絵がずいぶん多い。グループで申し込み、京都の舞妓にモデルになってもらうのだそうだ。舞妓の写真を見せてくれた。最近はみな地方から集めるのだそうだ。希望者はいなくはないが稽古やしきたりが厳しいから次々やめてゆくとか。
「私の絵のウリは顔が似ていることなんだ。」良く頼まれて肖像画を描くそうだ。オキャンな表情の女の子が描かれている。「うちの娘の気の強いところが良く描けている。」とお母さんに感謝されたそうだ。
それにしてもよく描くものだ。小さな喫茶店だが、新作ばかりが20枚以上あるだろうか。これを1年で描くとすると毎月2枚か。朝から晩まで描いているらしい。
昨年か一昨年前、彼は平和団体の主催する船に乗って世界クルーズをやってきた。
もともと高校時代は陸上部にいたというから体力は十分。船酔いなどするわけがなく、連日若い女性と騒いでいた。すると同宿の人間から文句がでて「個室に移されたよ。こちらにとっては好都合。」お友達が沢山できたらしい。
写真を沢山見せてくれた。絵葉書スタイルにして時々のコメントを書き添えている。
そのお友達もこの展覧会に来ているのだという。あまつさえ、その一部は彼の家に泊まりに来る。「おかげで使っていない食器類がずいぶんきれいになったよ。」とぬけぬけ。
彼の顔をしげしげ眺める。少し頭部が剥げて、ジャック・ニコルスンみたいだ。しかし彼は人を大事にする。来た人はみなお茶のごちそうにあずかった。そんな人懐っこさと、如才なさが警戒心をといてしまうのか。
彼はなかなか趣味が広い。私も参加する囲碁に旅行に山歩き。他にもピアノを弾くのだという。
一見充実幸せな老後。しかしその彼が言う。「おれは死んだら粉にしてその辺にまいてもらいたいよ。子どもなんて関係ないさ。墓なんか入る必要ないよ。京都で坊主とずいぶん知り合いになったけれど、なまぐさばかりだ。」
派手に見えていても、人間は最後まで一人・・・本当は寂しいところもあるのだろう。それでも、私は没頭できるものを持ち、誰とでも気さくに付き合うことのできる彼の生き方に羨ましさを感じる。
後記 個展を見にいった時の写真が送られてきた。いつもながら彼はマメである。しかし友達ってこういう風に扱うものだ、といまさら教えられる気がする。
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