488「安倍晋三の「美しい国へ」を読んだ」(9月12日(日)小雨)

ある席でこう言ったところ「そんなくだらない本を読んで。批評家のSもおかしいといっている。宣伝にきまっている。」などと非難の声が上がった。しかしこれから総理大臣になろうとする人の書いた本である。ゴーストライターに書かせたところがあるかもしれぬが、著者の考え方は現れているに違いない。読んで損はないように思う。読まないで「くだらない」と決め付けるのは間違っている。

参考のために以下に要点をまとめておく。文春新書からの出版。
「はじめに」で「闘う政治家」「闘わない政治家」について述べている。著者は、「国民のためとあれば批判を恐れずに行動する政治家」にあこがれているようである。
その原点は第1章の「わたしの原点」に見られる。
彼の祖父は岸信介、彼の父は安倍晋太郎である。1960年安保改定の頃、彼は6歳、渋谷の祖父の家でデモ隊に取り囲まれるなどした。祖父が「日本をアメリカに守ってもらうための条約だ。なんでみな反対するのか分からない。」と言ったのを、かすかに覚えているとか。高校の頃にも、70年を機に安保条約を破棄すべきである、と議論が沸きあがった。詳しくは知らなかったが、彼は高校教師に「新条約には経済条項もあります。そこには日米間の経済協力もうたわれていますが、どう思いますか」と質問した(20P)。その後得た知識で、サンフランシスコ講和条約で結ばれた日米安全保障条約で日本は米国に隷属的な立場を取らされていた。それを改定し、日米関係を強化し、日本の自立を実現しようとしたもので、政治家としてはきわめて現実的な対応だったことを知った、そうだ。

第2章「自立する国家」。拉致問題とであったのは88年秋の頃、父の事務所に83年に拉致され有森恵子さん両親が訪ねてきたとき、というから因縁はかなり深い。著者は93年に初当選を果たし、94-96年の村山政権時代を超えて97年に「北朝鮮拉致疑惑日本人救済議員連盟」を立ち上げる。日本の主権が侵害され、日本国民の人生が奪われた、ということに対する思いだった、とする。2002年に小泉訪朝のおかげで、5人が帰国したが、彼らが「北朝鮮に戻ることを押しとどめた。」。2006年北朝鮮はミサイルを打ち上げた。「対策チーム」を作り、すぐに対応したそうである。
靖国批判についてはA級戦犯の意味を取り上げている。「A級戦犯」として起訴されたものは28人、判決を受けたのは25人、そのうち死刑判決を受けたのは7人、「A級戦犯」の判決をうけても、日本が国連に加盟したときの外務大臣で、後に勲一等を叙勲された重光葵、法務大臣となった賀屋興宣などがいる。講和条約発効後、「戦犯を犯罪者としては扱わない。」と国民の総意で決めたことも指摘する。このような点を引用しながら、最後にある神父の言を紹介する。「いかなる国民も、国家のために死んだ人々に対して、敬意をはら義務と権利がある。」ただ彼自身の靖国参拝についてはセンシテイブな話ゆえか、議論していない。
またこの章で「国家は抑圧装置か」と問いかけているところも興味を引く。何を言うのも勝手だが、その自由を担保してくれるのは国家であることは言をまたない。

第3章以下は現政権の主張をおおむね踏襲した書きぶりで安倍氏独自の意見は薄いようだ。「ナショナリズムとは何か」は、地球市民という考えに対する疑問を投げかけ、帰属意識の重要性を挙げる。映画「ミリオンダラーベビー」や「日本の経済発展の秘密は天皇である。」としたマンスフィールド元駐日大使の言などが注目を引く。
第4章「日米同盟の構図」は、その必要性を説くと共に「金を出す」だけではダメ、とする。この議論は憲法改正議論をうかがわせているようだ。
第5章「日本とアジアそして中国」では、靖国問題に対する言及を避けつつ、日中関係の重要性を説き、両国の問題はたがいにコントロールすべき、としている。
第6章「少子国家の未来」第7章「教育の再生」は与党の議論そのままで省略する。

「おわりに」にあるように、この書は政策提言の本ではない。著者自身が十代、二十代のころどんなことを考えていたか、生まれた国にどんな感情を持ったか、政治家としてどう行動すべきか、を書いている。その意味でいやみがなく、著者が言うように若い人にも一読を薦めたい本に思えた。

註 ご意見をお待ちしています。
e-mail agatha@bekkoame.ne.jp
home-page http://www.bekkoame.ne.jp/~agatha