49 独り者には銭湯

T「何十年ぶりに銭湯」(3月11日   晴れ)

お母さんの背中にはきのこみたいな大きなほくろがあった。ぼくはそれを両手でつまんで、バスを運転する気分、ブーッといって、怒られた。番台にはきれいなお姉さんがいた。ぼくはちんちんをつまんで引っ張ってみせて喜んだ。またお母さんに怒られた。
小学校も高学年になるとぼくはお父さんとお風呂の入らなければなくなった。いつかあの番台に座ってみることは出来ないものか、と考えたが、実現しなかった。

今日も夜は一人だ、なんとなくむなしく感じたとき、銭湯に行ってみようと考えた。銭湯は、いつか統計で調べたけれど、内風呂の普及でものすごく減っている。青梅街道沿いのものも、今川町もいつの間にか廃業してしまった。しかし我が家の近くの井草湯はまだ健在。ここの息子さんが僕らの中学校の理科の先生をやっていた。長身で、ついでに顔も長かったからオウマ先生と呼ばれていたことを覚えている。
場所は環状8号と早稲田通りの交差点近く。我が家から5分くらい。
やや!あのあこがれていた、一度は座ってみたいと思っていた番台が外にあるではないか。そしてそこに鎮座ましますでぶっちょおばさん・・・・助平心を満足させてくれる可能性はまったくないぞ!
400円なり。結構よい値である。
「後で返してください。」とロッカーキーを渡される。この時点で気がついた。もう、脱衣所に竹の籠ではないんだ!
左右にロッカーだけがずらりと並ぶ殺風景な脱衣所。中央に大分古くなった感じのエキスパンデイングマシーンなどの体操用具。「痴漢は犯罪です」などという公共広告ばかりが幅を利かせている。扇風機はない。

客は風呂に入っている人間も含めて4,5人。みな結構な年齢、刺青をしたおじさん風がじろりとこちらをにらむ。見慣れない奴が入ってきたという風情だ。子供がおらず、客も少ないから活気がない。女湯のざわめきも聞こえない。
風呂場に入る。正面に江ノ島みたいな干潮時に渡れるようになっている島を描いたお世辞にもうまいとはいえぬペンキ絵。一昨年描きかえたらしく、すみに見附島とある。絵の下の看板広告に背景広告社というのがあった。そういえば最近、背景画を描く人が、都心でデモンストレーションをやった、という記事を見たことを覚えている。

浴槽は左右に分かれていて、そこから泡が湧き上がる仕掛けになっているらしくぼこぼこやっている。掲示板にハイドロ風呂とあり、健康によいとか何とか。どちらも相当の暑さである。昔は片方がぬるくなっていて子供用と思っていたが、今は深さが少し違うだけでスタイルは同じ。あまり長く入っていられない。
洗い場はタイルも新しく清潔である。一つ一つのカランの上にシャワーがついていて髪を洗うには至極便利である。洗髪は、家の風呂ではどうも苦手だ。第一浴槽の水が減ってしまう。仕上げに湯沸かし器から出てくるきれいな湯を使うのだが、暖かい湯が出てくるまでに時間がかかる、湯に勢いがない等々・・・。
昔はお風呂といえば1時間くらい入っていたものだが、一通り洗うとすることもなく、15分くらいで外に出てしまった。「燃料は何を使っているんですか。」とあのおばさんに聞くと「昼間は薪ですが、夜は油です。」・・・まだ薪を使うんだ!。

しかしよいお湯だったようで、体がほてり、大分温かくなった夜の外気が気持ちいい。地上の明かりのおかげですっかり存在感をなくした空を眺めながら、あの「神田川」を口ずさみつつぶらぶらと家路につく。
現代のお風呂はなかなか豪華である。しかしあそこまでやるなら、いっそサウナくらい併設して何とかスパにした方がいいのかもしれない。値段は協定があるのだから、そうはあげられまい。しかし内風呂のある人もやってくるんじゃないか、などと考えた。
(井草湯=杉並区5-3-15)

(3月13日)
見附島というのは石川県珠洲市鵜飼200-300メートル沖合いにある高さ28メートル、周囲400メートル余りの巨岩である。軍艦のようにみえることから「軍艦島」とも呼ばれている。弘法大師が唐で投げた金剛杵を探して、佐渡から能登へ渡ったときに、一番最初に見つけた島であることから名づけられたという。周辺には海水浴場やキャンプ場もあり、夏場には多くの人でにぎわう。
ちなみにお風呂屋さんには石川県出身者が多いという。私は井草湯のオーナーも石川県名のではないか、と考えている。

(その後に入ったお風呂屋さん)

3月13日-=亀の湯(杉並区桃井1-35-9)
数年前にラドン・サウナセンターを開業したため、依然来たときより狭くなっている。しかしラドン風呂、冷水枕つきジェット風呂を設けるなど設備は一応充実している。1200円払うラドン・サウナセンターと比較して、ないのはサウナと集会室くらいであり、ずっと経済的である。
背景画はないが、脱衣場と風呂場を仕切るガラスに刻まれた豊満な二人の女性像が印象的。こういうのは不思議に男湯でも女湯でも女性像。

3月15日=GOKURAKUYA(杉並区上荻2-40-14)
ここの風呂設備はすごい。ジェットバスと泡がしたからでるバブルバスのほか、電極を両端につけ、はいるとびりびり来る電気風呂、水風呂がついている。うれしいのは奥にサウナがあり、650円払えばこれをセットに出来ることである。
またコミュニテイルームというのがあり、カラオケなどが楽しめるらしい。普通は一人1時間300円取るが、風呂の客は無料で利用できる、早く申し込めば貸しきり、というのもあるそうだ。お風呂に入ってその後、みんなでカラオケを楽しむ同期会などというのも悪くない?
背景画がないことがちょっと淋しい。

3月16日=秀の湯(杉並区桃井4-2-9)
その辺のサウナセンター顔負けの設備である。冷水枕つきジェットバス、バブルバス、電気風呂、水風呂、それに薬草風呂がずらりと並ぶ。その上ドアの外には秀の湯名物の露天風呂。ただしシャワーは普通のもの。
客も井草湯あたりはいれずみのお兄さんなど4,5人で、寂れた感じだが、ここは夕方5時ころと行った時間もよかったか、14,5人はいた。若い人が多く、子供も一人。カランの数をかぞえたところ23。サウナは別料金で300円。黄色いタオルを使うことになっている。背景画はない。脱衣場には週刊誌など備えられ、くつろげる。
冷たいものが飲めるベンデイングマシーン、外にはコインランドリー、近くには駐車場と客に金を使わせるように出来ている。ただしコミュニテイルームはないようだ。

3月18日=白山湯(杉並区成田東2-26-11)
ここもすばらしい設備だ。ジェットバス,バブルバス、それを組み合わせたもの(これは脇の下、足裏をくすぐる仕掛けになっている)、電気風呂、冷水風呂、別料金だがサウナ(黄色いタオルを使う点は他と同じ)。打たせ湯もあったが故障していた。しかし格別に露天風呂がすばらしい。巨岩が配置され、さながら温泉気分。
カランは26、4時半ころ行ったが、10数人の客でにぎわっていた。脱衣場の手前番台のあるところがくつろげるようになっているのもよい。ここで冷たいものを飲む、新聞雑誌を読むことなどが出来る。外にはもちろんコインランドリーと駐車場。
番台のおばさんに聞いたところ、燃料はやはり石油と薪の併用であった。

3月20日=萩の湯(杉並区荻窪3-46-13)
昔ながらの風呂屋を思わせる。蓮の池の台の上に猪八戒らしき豚が昼寝をし、そこに金斗雲にのった孫悟空がかけつけている妙な絵が描かれている。風呂はジェットバスとバブルバス装置をつけているとはいえ、全体古い。ほかに有料でスチームサウナ。その上に乗った観葉植物がほっとした気分にさせる。カランは23。客は数人で少なかった。
二階のコミュニケーションルームは無料で、筋力トレーニング装置がいくつか備えられ、テレビ、ビデオが見られるようになっている。
全体狭い敷地ながら商売に徹している感じ。有料ビデオのほか、インターネット接続、カプセルシャワー、コインランドリー、風呂用具および飲み物販売、さらに屋上にはゴルフ練習場まで設けている。

3月30日=湯あみらんど永福(杉並区永福4-2-10)
永福町駅そば、せまい路地に面しており、駐車場がなさそうなのが残念だが、すばらしい風呂である。全体ギリシャ風?で統一されている。森林浴というのはミスとが上からふりかかりなかなか味がある。露天風呂もいい線行っている。
ほかに有料のサウナ、電気風呂、バブルバス、ジェットとバブルを組み合わせたマッサージ風呂、水風呂、シャワーがある。カランの数は24。フロントもすばらしく、応接セットがおかれ、くつろげるようになっている。もちろん、コインランドリーもある。
横尾忠則らしい富士山を背景にした風呂のポスター絵が面白い。

U「銭湯の復活」(3月26日 雨)

1010をなんて読むか知っていますか。そうです。せんとう!
11日に井草湯に行ったが、翌日ラジオ体操でいっしょになるAさんに「井草湯はあんまりはやらないわ。最近のお風呂は、ジャグジーやら電気風呂やらサウナやらみなついていて楽しいものよ。」と言われた。それがきっかけになって家の近くにあるものや「温泉旅行」というガイドブックに載っている杉並の名湯などに立て続けに行った。どこもそれなりにすばらしく、いつもいい気持ちになって帰ってくる。
個々のお風呂の評価についてはべつのところに譲るが、400円でこんな気分になれるなら、何も我が家の風呂に入ることはないと考え始めている。おかげで我が家の風呂は閑古鳥が鳴き始めている。やっぱりお湯をはって沸かすのが面倒くさいし、水を替えないとすぐにゆあかがたまってくる。狭いし、背景画のように見るものもない。ジェット風呂がない、エトセトラ、エトセトラ。独り者には銭湯は絶対にお勧め。

二つほど銭湯に関する新聞記事を見つけた。
一つは、古ぼけた下町の銭湯を舞台に若者たちの交流を描いた映画がこの秋公開されるというものである。「水の女」(日活)で監督は杉浦秀則という人、「核家族時代の幸せとは何かを訴えるには、昔ながらの銭湯が格好の舞台」と話しているそうだ。撮影の舞台となったのが大田区の明神湯で、日本瓦の屋根が懐かしさを誘う。合わせて記事は写真展やら銭湯の背景になっている富士山などの「風景画」を集めた美術展の紹介をしている。

もう一つの記事は、様様な種類のサービスが楽しめる「スーパー銭湯」の話である。埼玉県幸手市にある「極楽湯幸手店」を紹介している。
「温泉のような落ち着いた雰囲気。従来の鉄骨作りでなく総木造りを採用しているのが目をひく。人気の露天風呂は岩風呂、かまくらの蒸し風呂、つぼを使った五右衛門風呂、ジェット風呂、屋根とすだれをつけて隠し湯風にした檜風呂など多彩。現在は井戸水の沸かし湯だが、秋までに温泉を掘削し、天然温泉に切り替える。」
さらにここは飲食コーナーも設けており、刺身、串揚げなどまで提供するそうだ。極楽湯は「自然堂」という千代田区にある会社がチェーン展開している。このようなスーパー銭湯の魅力は投資回収の速さで「総事業費5−6億円なら約5年といわれる。そのため、新規参入が相次ぎ、競争が激化しており、ほかにもフィットネスと組み合わせるなどのチェーン店があるそうだ。

結局は、すでに風呂を自宅に持っている客をどうやってもう一度取り戻すか、ということが成功の秘訣になるのだろうか。
Aさんが今度は「杉並区役所に行ったついでにもらってきたの。」と東京銭湯マップなるカラフルな冊子をくれた。杉並区では61のお風呂屋さんが紹介されており、場所、設備などすべてが記載されている。
「お風呂屋によっては、阿笠さんが座ってみたいっておっしゃってた番台もあるのよ。印がつけてあるわ」・・・・おれ、そんなこと言ったかなあ。入口に受付があって、脱衣場がみえないものはフロントというのだそうだ。
61のうち×印のついているものが6つあった。廃業したのだそうだ。スーパー銭湯が繁盛する一方、年々減少の一途をたどりすでにピーク時の半分しかない厳しい業界の実態が垣間見える。
しかし沢山あるなあ。これを一日一つづつ回ったとしたら・・・・、全部で1000を越えるんじゃないだろうか。あなたの老後が充実した毎日でいっぱいになることはまちがいありませんよ。

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