5「男の手料理・ブイヤベース」(9月27日 晴れ)

ものは見よう、考えようによって楽しくもなり、つらくもなる。楽しい人生を過ごすためにはなんでも面白いと思ってみるようにすることが大切だと思う。

「明日どうする?」ガールフレンドのAさんから電話がかかってきた。我々は最近なんとなく木曜日は我が家で食事をすることになっている。しかしAさんは学校の授業やら、孫の世話やらで忙しいらしい。「よし、それならこの前のバリ島旅行で買ったサフランがあるから、おれがブイヤベースを作ってやる。」と安請け合いした。

辻静雄の「おそうざい風フランス料理」という本はなかなか本格的だ。その中のブイヤベースは、いつかつくろうとは思っていたが材料も工程も大変そうでしりごみしていた。今日はこのレシペ通りにつくってやるぞ!

我が家にないものをメモし、それを片手に荻窪にゆく。「いとより、めばる、こちなんてあるかなあ。ブイヤベースを作りたい。」というと魚屋のお兄さんはそんな珍奇な魚はないらしく「それならたらがいい。今さばいているところだ。」と奥に声をかけた。やがてたらの切り身でいっぱいになったビニール袋を見せられた。ずっしりと重い。「380円!普通なら700円するよ。」に乗せられ、あっさりマニュアル通りは変更になってしまった。

最初にきめたルールをやぶるとあとは実践的で適当になった。なんだか、処女を失った娘みたい・・・・表現が不適切かな?

貝はレシペによれば二人分でハマグリ2個、ムール貝4個、それっぱっち売ってるわけがない。ハマグリワンパックで代用。えびも2尾必要だが、これもワンパック。魚のあらから作るスープはブイヨンでたらすことにする。

パステイスというのはアニス酒のことらしい。酒屋に行くと売り子の少年は「それはなんですか。ワインですか。」と聞く。そろえるのは無理とわかると、店に無理を確認することが、意地悪心理でかえって面白くなってきた。「ういきょうはあるか。」と西友で聞くと、係りの男は「ただいま、このレジの専門家を呼んでまいります。」専門家と称するおばさんが来たが「味の素みたいなものかしら。どこかで聞いたような気もするけど。」結局、これも省略することにした。原価は全部で2000円を超えたが、レストランで食うことを考えれば安いものだ。

我が家でコーヒー片手に、作り始める。なべにオリーブ油を熱し、たまねぎ、にんじん、セロリをいため、白ワインで煮詰め、ブイヨンスープ、熟したトマト、トマトペーストはなにやらわからぬからトマトケチャップ、タイム、ローリエ、レンジで加熱して揉みほぐしたサフランを加え、あくをとりのぞきながら20分ほど煮る。こし汁を温めなおし、ハマグリをいれ、口を開いたらすぐに取り出す。べつにジャガイモを固ゆでした。これで、メインはほぼ準備完了。後は、Aさんが来た時に、いっしょに土鍋で調理すればいい。

つけあわせ。アイヨリはマヨネーズを搾り出し、それにすったにんにくをいれた。マヨネーズから作るといいのだけれど、そこまでは熱心じゃなかった。サラダを一品と、ガスパッチョを作ることにした。これは数種の野菜をミキサーにかけただけの、いわば飲むサラダ。今日は久しぶりに台所の油で汚れていたミキサーもマジクリンを使ってきれいに洗っておいた。このサラダは1年程前なくなった親父に作ってやったことがある。冷やして飲むとうまいから、あらかじめ作って冷蔵庫に入れておく。

今日は男と女の立場が逆転。Aさんは、ケーキと、「もらいものよ。」といいながらシャブリの白ワインを持ってきた。早速ブイヤベースデイナーの始まり。まずは苦労して作ったスープを入れた土鍋を加熱し、えびと下味をつけたたらを放り込む。実はたらの下味にあのパステイスが必要だったのだが、白ワインで代用した。ぐつぐつと西洋タラチリよろしく煮え始め、サフランのよい香りがただよう。

なかなか好評だった。「おいしいわ。」を繰り返した後、彼女は「料理が全部できているところに、ワイン片手にやってきて食べるだけなんて最高!また、このスタイルで行きましょう。」とのたもうた。どうも彼女にとっては、味よりも男に作らせた料理、というところに意義があるみたいに聞こえた。