三宅坂の国立劇場前で初老の地味な和服姿の女性が、恰幅のいい男と話している。
「まあ、まあ、先生に素晴らしい作品をいただいて・・・・」
私は、ガールフレンドのAさんを突っつき、目顔で知らせる。しかし彼女は分からぬ様子。
藤純子さんだ。かって「緋牡丹博徒」シリーズ、「日本女侠伝」などで一世を風靡した大女優。私も大好きだった。その後、尾上菊五郎と結婚し引退し梨園に入った。長女は女優の寺島しのぶ、長男は尾上菊之助。ご本人は大分変わってしまったけれど、つい先日私は黒柳徹子の番組に出演し「いろいろ違った世界に入ってご苦労もおおかったでしょう。」などと話しかけられていたから、気がついたのだ。
新春を、歌舞伎をみて過ごそう、と言う人はなかなか多い。満席で当日券はないのだそうだ。和服姿の女性が目立つ・・・・といっても振袖は見かけないが。
国立劇場開場40周年記念。演目は通し狂言梅初春五十三驛(うめのはるごじゅうさんつぎ)五幕十三場。休憩も入れて4時間余り、途中ではご祝儀の手ぬぐいまでまかれる。
江戸後期から明治にかけて、東海道を舞台にスピーデイに物語が展開してゆく「五十三次物」が次々に作られた。この作品もその一つで、天保六年(1835)、江戸市村座の初春狂言として三代目尾上菊五郎によって上演され、大好評を博した。詳しい内容が知られていない作品だが、今回は大阪で再演されたときの台本にもとづく復活上演。
源頼朝への反逆を企てる木曾義仲の遺児清水の冠者義高は、百姓次郎吉に変身し内裏に侵入、頼朝の娘で許婚の大姫と再会する。義高は消え、大姫は彼を追って、義仲の旧臣根の井の小弥太に導かれ、東海道を東に向かう。一方頼朝の弟蒲冠者範頼(のりより)も、天下掌握を画策し、大江家お預かりの朝廷の宝剣を本庄助太夫に盗ませる。大江の家中白井権八は助太夫を切るが、その子助八が宝剣をもって逃走。こうして話は東海道を東に向かいながら、化け猫騒動、囚人籠破り、八百屋お七もどき、権八と愛人小紫の色模様などと展開して行く。場面がくるくる変わり、見るものを飽きさせない。そして最後に日本橋での大団円。
能、歌舞伎、狂言と言うとどうも堅苦しい。それにいつも時間の関係で一部しか見せてもらえない。全体のスジは解説でも読まぬと分からぬ。そこへ行くと今回は十分狂言の面白さが堪能でき、楽しいひと時を過ごす事ができた。お勧め!
主演の尾上菊五郎は七代目、尾上梅幸の長男。昭和17年生まれというから私より一つ若い。23年新橋演舞場で初舞台。48年歌舞伎座「弁天娘女男白浪」で7代目襲名。その彼が、一人で清水冠者義高、猫石の精霊、小夜衣お七に加え、田舎芝居の場面にも登場し、大活躍。本当によく頑張るものだ、と驚嘆する。菊之助も白井権八など二役に主演している。妖艶な大姫役は三浦屋小紫と共に女形の五代目中村時蔵が演じている。
追記 1月5日
ビデオ屋で「緋牡丹博徒」を借りてくる。この映画ができたのが昭和43年、藤純子は昭和20年生まれ。きれいだねえ、品があるねえ。映画も日本的な美しさがあふれ出ていて素晴らしいねえ。
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