ガールフレンドのAさんと、帝劇にミュージカル「マリー・アントワネット」を見にゆく。
遠藤周作原作の「マリー・アントワネット」を、東宝がミュージカル「エリザベート」等をてがけた作家ミヒャエル・クンツエ、作曲家シルヴェスアー・リーヴァに依頼して製作したものと言う。
明日が1年近くに及ぶ公演の千秋楽、客は満員の入りで、人気をうかがわせる。高校生の一団や、はとバスで乗りつける団体客までいた。良く出来た作品である。ただ「エリザベート」を見ていたので、演出は似ていると感じた。マリー・アントワネット役の涼風真世は当然として、時代の預言者山口祐一郎の演ずるカリオストロがいい。
私は遠藤周作の「マリー・アントワネット」は読んでいない。しかし私にとってマリー・アントワネットはなかなか思い出が深い。
高校3年の時に、もう大学受験の準備で学校の授業など上の空だったころ、世界史のS先生が岩波文庫版、シュテファン・ツヴァイクのマリー・アントワネットのさわりを読んで聞かせてくれた。そのときなるほど歴史は面白いと初めて感じた。大学に入学が決まった春、広島に父と旅行したが、夜汽車の中で夢中になって読んだ。今でも冒頭の一節を覚えている。
「何世紀もの間ハプスブルグ家とブルボン家は、ヨーロッパの覇権を目指して、ドイツ、イタリア、フランドルの幾多の戦場に戦い続けてきたが、ついに両家はともども疲れ果ててしまった。・・・・すでにして島国イギリスからは異教の民が虎視眈々として世界帝国建設に触手をのばしており、すでにして新教国マルク・ブランデンブルグは、強力な王国に成長しつつあり、すでにして半ば異教のロシアは、その勢力を無限に拡大せんと構えている。」
当時のヨーロッパ情勢を実に明快に表現した出だしだ。訳者が異教の民、新教国、半ば異教とうまく使い分けているのが分かる。
「又しても又しても宿命的な戦争を繰り返しているよりは、むしろ平和を保つほうがましなのではあるまいか。ルイ15世の宮廷ではショアズール、マリア・テレサの智慧袋カウニッツ、この二人が同盟を計画する。」
後に、ウイーンの歴史美術博物館の前にそびえるマリー・アントワネットのブロンズ像をみたとき、足下にいる関係者の一人がモーツアルトであり、このカウニッツであると教えられて、うれしくなったのを覚えている。
「・・・・両王朝を血で結び合わせようと彼らは提案する。結婚適齢期の皇女ならば、ハプスブルグ家の王女ならば事欠いたことはない。」
そう、マリア・テレサは16人の子持ちでマリー・アントワネットは16番目の娘であった。かくして1770年、彼女は弱冠15歳にして、ウイーンからフライブルグ、ストラスブルグを経てルイ16世の元に御輿入れとなるのである。
この後、革命の機運が高まり、1789年にバスチーユが襲撃され、91年に国王一家はフランス脱出を図り、ヴァレンヌでつかまり、93年にジャコバン党の主導で断頭台の露と消えるまでは歴史の教えるところである。しかしながらミュージカルでは、マリー・アントワネットにもう一人のM.A、孤児でどん底の生活にあえぎ、マリー・アントワネットと王朝を憎み、革命の火付け役をするマルグリット・アルノーが加わる。この辺は遠藤周作独特のもので、ツヴァイクにはなかったところである。その点でなかなか深みがあり、Aさんに言わせると「ヴェルサイユの薔薇」とは大いに違うそうだ。
最後にミュージカルを見ながら、あらためて先導された大衆の恐ろしさと、それを画策するやからに対する憎しみのようなものを強く感じた。歴史はこういった奇妙な動きに、時として大きくその進路を捻じ曲げられ、当初は予測されなかった方向にむかう。
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