562「北朝鮮・中国はどれほど恐いか」(5月30日(水)曇り時々雨)

田岡俊次「北朝鮮・中国はどれほど恐いか」を読む。
現在の日本の安全について考えるとき、北朝鮮と中国の台湾解放問題に行き着く。
著者は子供の頃から戦闘機や軍艦に興味を持ち、長じて朝日新聞社に入社し、その分野を歩いた。そのせいか技術的な裏づけがしっかりしており、なるほどと思わせる。

北朝鮮の国内総生産(GDP)は多い目の推定でも、2兆6千億円程度で島根県なみ、韓国の36分の1。1990年に当時のソ連が韓国を承認して国交を樹立し、92年中国もそれに続いたためほぼ孤立状態である。また米国は米韓連合作戦計画の改訂をおこない、北朝鮮の攻撃があればソウルの北で撃退、平壌を包囲占領、中国の出方を伺うとした。
こんな中で、核の威嚇あるいはその攻撃からのがれるために、北朝鮮としては核兵器が本当にあることを実験で示す必要があった、と見るべきである。

現在の中国の北朝鮮政策は「生かさず殺さず」である。北朝鮮崩壊で難民が流入しても困るし、一人当たりGDPがはるかに高い韓国と国境を接するのも都合が悪い。韓国も崩壊が迷惑な点では一致している。米国は、一時北朝鮮との戦争を考えたが、今ではその外科的手術はあきらめている。六カ国協議で時間延ばし政策を取ろうとしている。
しかし北朝鮮が「スカッドC」で十分なのに、あえて「ノドン」を作ったことを見れば、万一第二次朝鮮戦争になれば在日米軍基地を攻撃し、ついでに東京などの都市をたたくことは考えられ、侮れない。
今回の核実験について米国はしきりに失敗説を流している。国内的にブッシュ政権の北朝鮮に対する無策振りを追求されること、日本の核武装を恐れること、六カ国協議で北朝鮮を核保有国として認めたくないなどの理由と思われる。核兵器をノドンにつむための小型化はそれほど難しくはない。従って十分可能性はある。
東京直撃なら100万人は死ぬ。防衛策の第一はシェルターに逃げ込むことで、スウエーデンなどでもこの方法をとっている。弾道ミサイルを宇宙・空中で破壊する「核ミサイル対策」は、多弾頭ミサイルが一斉に発射されると突破されるし、オトリ弾頭の識別が困難で、その上日本中を守るにはとてつもない費用がかかる。パトリオット、イージス艦による最高度攻撃も気休め程度の効果しか期待できない。先制攻撃は、攻撃目標が容易に定められず机上の空論に過ぎない。核兵器保有論も、相手が絶望的、非理性的であればそもそも「抑止」の概念が成り立たないし、米国の警戒感をあおることになる。米国の関心は日本の核武装阻止、北朝鮮の各技術の中東等への移転阻止と考えられる。日本にとって、米国の「核の傘」は、核威嚇に言い返す材料になる程度の効果はあろう。

興隆する中国とどうつきあうかは、長期的、広範な国の経済・安全保障上の利害を考えれば、より重要である。軍事費が増大していると言うが、軍人の副業防止などのための人件費の増加等によるところが多い。米国が一時中国の軍事費増強を脅威としたのは、冷戦終結後ソ連の後釜として中国を考えたからであろう。
冷戦前、米国では欧州か中東で対ソ戦争になれば、ソ連軍の比較的手薄な極東で攻勢に出る作戦が論じられた。そのため中国の軍事力を育成して対ソ戦略「チャイナカード」とする事が考えられた。しかしベルリンの壁崩壊とともにソ連の脅威が弱まり、中国の軍事力強化を援助する必要がなくなり、天安門事件を契機にそれらの停止に傾いた。そして台湾に対して武器輸出を強化し始めた。

中国と台湾の軍事力を比較する際、第一の要素は制空権の帰趨を決める航空戦力だ。米国による「ミリタリーバランス」で、中国軍の作戦機が最近急に増えたように書いているけれども、古い時代物の戦闘機が多く、実戦ではせいぜい700機程度しか使えないだろう。しかも国境が広く新鋭機を台湾方面に集中するわけにはいかない、防空指揮システムも電子化が遅れているなど問題点を抱えている。
一方台湾は新鋭機を導入しているし、パイロットの熟度も高く、絶対的に有利である。ただ中国は短距離ミサイル、弾道ミサイルなど多くのミサイルを有しており、これが一時的に台湾に打撃を与えることは考えられる。海軍についても中国の潜水艦は電子化が遅れていたり、騒音で有名だったりする。中国軍水上艦は例外的に数が増えているが、各国の寄せ集めの感は免れず、一体的な行動がとれるか疑問だ。空母はどちらかと言えばステータスシンボルとして備えている程度。上陸作戦もほとんど可能性がなく、このような状態で中国が攻撃するとは考えにくい。
台湾が独立を望まぬ理由がある。(1)台湾住民の85%が現状維持を望んでいる。(2)中国経済との結びつきが非常に強く独立は不得策。(3)軍の将校の多くが外省人で士気が問題。(4)米国、日本がその独立にはアメリカが強い警戒感を示している。それゆえ中国の台湾侵攻を前提とし、琉球諸島を一時的に占領するとか、ミサイルが日本に向けられている、と言う議論はナンセンスである。

最近になって米国は再び中国を重視し始めている。台湾独立を支持せず、武器も与えず、一方で中国と軍事交流をするなどしている。経済における米中対立もおおくの米国企業が中国に進出している現状では大きな問題にならないだろう。
それどころか、靖国問題などでは米国は日本より中国を重視した政策を取っているようにも見える。東シナ海のガス田開発は中国の言い分にも首肯出来るところがあり、共同開発をねらうべきだ。中国は急速に交流しつつあり、日本はまごまごすると駅前通のシャッター街になり兼ねない。現在の状況で中国を敵に仕立てるような政策は百害あって一利なし、と言える。

最後に私としては、論理的で非常に分かりやすく現状分析としては非常に優れていると思った。ただ中国、北朝鮮の現在の状況がやや長期的に見てどう変わって行くかは予断を許さない。その辺についての意見が知りたい気がするのは私だけだろうか。日経新聞に由れば、山崎拓氏に、最近国防費増加の理由を聞かれて、中国要人は「台湾解放への構えだ」と漏らしたとか・・・・。

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