572「ミタルスチール」(7月1日(日)曇り)

NHKで国際的なM&Aがささやかれる鉄鋼業界の話をしていた。
あるインド人が小さな鉄工所から始めて成功し、次々と買収を繰り返して、今では世界一の鉄鋼王になった。ロンドンに居を構えるミタル一族である。
「我々は高速道路の上を走っているようなものだ。先に行く車があれば追い越さなければならない。そのためには現在も、今後も合併と吸収を繰り返してゆく・・・・・。」

彼らはつい最近フランスのアルセロールを買収した。あるときアルセロール社長の元に「オタクの会社を買収しますから。」と一本の電話が入る。当然拒否する。話が大きくなり、フランス政府もマスコミも国益に反すると騒ぎ出す。
しかしミタルは、株の買い取り価格を吊り上げるとともに、株主に対して「ミタルは一般鋼材、アルセロールは高級鋼材、市場も重なっていない。合併によって一企業で世界の半分近くの市場を支配できるようになり、株主にも利益をもたらすことが出来る。」アルセロールの株主は、銀行などを含めた関係者20%、機関投資家40%、一般投資家40%である。株価が急騰する中、アルセロールは「わが社の利益のほうが大きい、集めた金はミタルの古い工場の建て直しに使われるだけだ。」などと宣伝する。

確かに大きくする利点は大きい。すでに上流の鉄鉱石の採掘部門では寡占化が進んでおり、ブラジルの会社が世界の3割を占めるまでになったとか。おかげで鉄鋼各社は値上げを押し付けられ、ここ数年で2倍以上に跳ね上がっている。
ついにアルセロールは、ミタルと組むよりはこちらと組みましょう、とロシアの中堅大手との合併案を示す。ところがプーチン政権下のロシアの会社とあって、株主の拒否反応は予想以上に強かった。結局株主がみなミタル側につき、買収は成立してしまった。アルセロールの社長が言う。「株主を味方につけられたら、もう誰も助けてくれない。」
ルクセンブルグの大口投資家が言っていた言葉が印象的。「別にどちらが勝とうといいのだが、私はこれを絶好の儲けるチャンスと考えた。」結果、彼は、高値で持ち株をミタルに売り、数千億円の利益をあげたとか。

このミタルスチールが、アジアの鉄鋼メーカーもねらうのではないか、と懸念されている。そこでインドのタタグループは、突然ヨーロッパのあるメーカーと組むことを発表したし、日本の新日鉄は、住友製鉄、神戸製鋼と買収されそうになったら協力して防衛すると協定を結んだ。さらに新日鉄は韓国の大手メーカーポスコとも組むなどしている。

今年の株主総会では、ファンドなど大株主から増配や経営参加など多くの提案がなされた。TBSと楽天の話、ブルドッグソースとファンドの話など印象に残る。しかしそれらはいづれも否決されたようだ。会社側が買収防衛策を打ち出したり、事前に株主から支持の票を集めることなどが、功を奏したようだ。逆に言えば、それらを要求するファンド側が、他の投資家へ増配や経営参加によるメリットを十分に説明できなかったから、と解釈できる。
しかしこの争いはこれからずっと続くだろう。そのうちにファンド側の提案も理解され、会社が屈服する例が見られるようになるのは必定と思う。株主さえ味方につける事が出来れば、どんなに技術の発達した会社でも買収できる・・・・ミタルのアルセロール買収劇はそれを良く教えている。

後記  証券会社の担当者が変わった。ソニーについて彼のコメントが面白い。将来性があり、夢があるが、利益率と利回りでは余り買えない。しかしそのブランド力は凄く、韓国のサムソンが密に欲しがっているらしい。だから高い、という。天下のソニーがM&Aの対象になる可能性があるとは驚き。株の見かたも時代とともに変わってくる。

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