アパートの客がまた一人出て行く、と電話がかかってきた。今年は年初に満室であった。しかしまだ半年あまりというのに、随分多くの部屋が空いた。新しい客は町の不動産屋を通してみつけるだが、これでなかなか大変なのである。
ある雑誌にアパートの客の平均居住期間は1年9ヶ月と書いてあった。商売を始めた頃、不動産屋は「客にどんどん代わってもらうのですよ。そうすれば敷金だの礼金だの取れる。」と言ったが、私は嫌いである。私のアパートに住んでもらうのも何かの縁、出来るだけ長くいて欲しい。それに最近は敷金や礼金の収入はあてにできなくなった。前者は東京都の指導で自然劣化は大宅の負担であるから、退出時にはクリーニング費用を除いてほとんど返金することになる。また後者も低くなってきており、しかも不動産屋は広告宣伝費として1か月分を要求するからほとんど手元には入らない。そのため、客の要望にはできるだけ真摯に答え、長くいてもらうようにしている。
以前は、新しい客は、年収300万を切り、これで間違いなく家賃を払ってもらえるかと、心配することもあった。ところが最近は少し様子が変わってきている。年収1000万と書いてきた放送関係の仕事をしている新婚夫婦がいる。将来の独立を考えて今のうちにお金をためておこうというのだろうか。
顧客は、ほとんどがインターネットでアパートを探すのだと言う。そのため町の不動産会社は、単独ではなかなか見てもらえぬから、特定の業者に掲載料を払って、自分の物件をそのサイトに掲載してもらう。これだけなら公平なのだが、もっと巨大な組織が関与している。YAHOOである。ここは業者のサイトを探して、売れそうな物件を自分のサイトに勝手に載せてしまうらしい。もちろん掲載料は取れないが、自分のサイトを広く利用してもらおうとの作戦のようだ。
一般的にはお客は業者のサイトなど知らぬから、このYAHOO検索欄に頼るらしい。実際検索欄から探してみると、この地区で出ている空きアパートがずらりと価格、広さなどの順に並んでいる。客はそれをみて取り扱い不動産屋に電話をする。するとYAHOOに掲載されず、業界のサイトだけの不動産屋の物件は著しく不利になる。この辺のことを情報で得て、私は、最近は複数の不動産屋に頼むようにしている。
お客について不動産屋は審査をする、と称しているが、お客を紹介し、商売を成立させればそれで一丁上がり、面接した感じと書類程度で判断してしまう。それから長い間、時には私のように隣人として、付き合わなければならないのは大家である。
今も心配になっている客が一人いる。若い女性なのだが、いつも引き上げ式の雨戸を下から50センチほどあけたままである。朝夕の開閉をしない。ベランダには一切出てこない。洗濯物もほさない。夜になっても電機が消えたままの状態が続くから、いるのかいないのか、生きているのか死んでいるのか分からない。ようやく2、3日前部屋に明かりがついているときがあったこと、家賃が払われていること、郵便受けがいつの間にか空になっていることなどからまあ、無事らしいと安心はしたのだけれど・・・・・。
入居してきて、大家に挨拶に来る客はまず安全である。とにかく自分と大家の関係を良好に保とうと考えている。しかし半分はこない。仕方がないから、最近はこちらから出向いて人相を確認?することにしている。ただ私は人の顔をなかなか覚えられず、町で挨拶されても分からず、しばらくしてアパートの住人と気づくこともある。雨戸半開きの客は、出向いたときにも今出られないとか何とかで、面会を断られたことを覚えている。
アパート住民のヨコの関係はほとんどないようだ。時々住人から「上はどんな人が住んでおられるのですか。」などと聞かれる。プライバシーについても、権利意識ばかりはびこり、皆うるさいらしく、警察が時々どのような住民が住んでいるか調査に来る。大家としては、素直に教えるわけにもゆかぬ。この前区役所からアパートの名前の件で電話を貰った。その時も住民の名前だけでいいから知らせろ、と強く言われた。住民票を移さない人間もいるらしい。
隣は何をする人ぞ・・・・・そんな言葉を実感させるアパート住民事情である。
註 ご意見をお待ちしています。
e-mail agatha@bekkoame.ne.jp
home-page http://www.bekkoame.ne.jp/~agatha