627「酸化鉄と釉」(1月20日(土) 晴れ)

先日、陶芸のA先生から言われて「陶器が出来るまでのあらまし」として、アルミナなど酸化物の融点、ムライトの話など書いたけれども、またまた宿題。
「問題は鉄なのよ。なくなった**先生は鉄が1050度くらいで状態が変ると言っていたけれど、何のことだかよく分からなかった。そこが知りたいのよ。」

まずは復習。鉄と酸化鉄について簡単なことをまとめる。
鉄鉱石の主成分は酸化鉄であり、多く使われている鉄鉱石は赤鉄鉱(Fe2O3)、磁鉄鉱(Fe3O4)、褐鉄鉱(Fe2O3・nH2O)あるいは砂鉄などである。
鉄を作るとき、鉱は、炭素(コークス)の燃焼で発生する一酸化炭素を用いて還元させる。
3段階をへてFe2O3--->Fe3O4--->FeO--->Feのように変化する。
Fe2O3は、酸化第二鉄と呼び、製法および処理により黄赤色、赤褐色、紫色、黒色などに変化する。赤さびの主成分。ベンガラはその代表例。Fe3O4は、四三酸化鉄と呼び、黒さびの主成分、強磁性を示す。FeOは、酸化第一鉄と呼び、純粋なものは、シュウ酸鉄を熱して得られる。鉄棒などのさび止めに使われる。

先生が知りたがっておられるのは、この酸化鉄を釉に使ったときの状況に違いない。特に先生は最近還元焼成に凝っているからその辺がポイントか?
釉は私たちはいつも先生の用意したものを使うが、自作できる。たとえば長石、灰、粘土を混合、色釉にする場合はこれに「着色剤」を加える。
書物に織部釉の調合例が出ていた。こちらは「着色剤」は酸化銅である。
釜戸長石20、天草陶石20、土灰50、韓国カオリン10、酸化銅4
鉄の場合はFe2O3の形だが、濃度と焼成条件によって以下のように変るとしている。
添加量 1%  酸化焼成=黄・褐色  還元焼成=青・水色・緑
添加量 2-5%  酸化=褐色・飴色  還元=緑・鼠・褐色
添加量 5-10%  酸化=黒褐色・黒・茶  還元=黒褐色・黒・茶
添加量 10%以上  酸化=黒褐色・赤褐色 還元焼成=黒褐色・赤褐色・鉄結晶。
もっとも還元焼成について別の書では、「0.3%程度で青白磁釉、0.6-1.5%ぐらいが青磁釉,6%以上では褐釉、10%近くになると黒色の天目釉。」とあり、余り断定的にはいえない。
基礎釉や焼成条件によって大きな差がでるのであろう。いづれにしろ、青磁釉の青い色は、釉薬中に含まれる微量(1-3%)の酸化第二鉄が第一鉄に変化してできたものといえる。

さて1050度の問題。酸化鉄の組成変化や構造変化(転移)を知るには、本来は状態図が必要である。しかし一般にはなかなか手に入りにくいし、雰囲気、焼成時間、不純物等によっても変化し難しい。しかし鉄の酸化還元による変化は、いろいろなエピソードを生んでいるが、それを拾っているうちに、ウエブサイトにつぎのような話があった。
「黒楽は、酸化鉄を混ぜて素地にかける。酸化鉄が1050度くらいで分解して
Fe2O3--->FeO+Fe2O3(Fe3O4)
磁鉄鉱の形になったときに、急冷すると真っ黒になる。
黒楽は初代楽長次郎,二代常慶の作品では光沢が少ないが、これは黒楽用の顔料(京都の加茂川石)が、高熱でないと融けないためである。三代道入によって、ふいごを用いて風をおくることを採り入れた為、焼成温度を高める事が出来るようになり、さらにこれを水中に投じて急冷するため、光沢のある、いわゆる「のんこう黒」が生まれた」

ここまで来て私は学生時代、片手間にやった実験を思い出した。アルミナボートにベンガラを入れ、電気炉窒素雰囲気で1100度くらいに熱し、取り出すと、鉄が磁性を帯びるようになった。つまりFe3O4を生じていたのだ。

(参考資料)手島敦  釉がわかる本、島田文雄  素材で楽しい工芸、読売新聞社  陶芸の技法百科、ほかにウエブサイトから引用

(参考資料)
「油滴天目・・・その世界と技法」(1月21日(月))

古本屋でみつけて雫浄光と言う人の同名著書を買った。
カバーに同氏作と思われる、黒い土に見事に発生させた鉄、つまり油滴が一面に文様となった壷。油滴天目は窯変天目についで製作が難しく、美しく、珍重される天目である。著者は大正14年生まれ、その美しさに見せられ、昭和35年頃よりその研究に従事しているとある。昭和59年に浄土宗のお坊さんになった人である。

土はきめ細かい物がいい。著者が用いているものは一次粘土を代表する信楽白口で水簸したものを用いているそうだ。
素焼きは必ず行う。上限温度は普通700度といわれるが天目では650度位にしている。
釉は中国南宋末期に達した天目系の陶片について研究した結果を現在の日本で得られる原料に置き換えると次のようになるとしている。
福島長石  65.03%  石灰石  4.27%  滑石(タルク)  6.41%  硅石  24.02%
これに次の酸化物を加える。
酸化第二鉄  6.41%  酸化コバルト  0.20%

以上が準備過程で本焼きについて長いが引用すると
「釉は1000-1100度くらいの間で軟化し、釉中の酸化第二鉄などが化学的反応を見せます。この温度で10時間ほど維持します。第二段階の1250度までの上昇過程で、酸素の働きはより活発化し、釉や土が含有する酸化鉄から放出された酸素分は、飴上の釉層を取って外部に出ます。その際、酸素の跡が微細な穴となって釉面に残ります。この現象が結晶化の第1歩であります。・・・・小穴群はやがて塞がれますがすぐにではありません。天目釉の粘土が強いからです。むしろ1000-1250度を持続させることによって酸素の出口跡は増えて行きますが、と同時に、周囲の比較的流動性のある、しかも鉄分を多く含んだ釉がじょじょにそれらの小孔へ流れ込むようになります。そのために、当初から天目の釉の中には、普通の釉よりはるかに多量の酸化第二鉄を配合しておくのです。
次は10時間ほど費やし、700度くらいまでゆっくり温度を下げて行きます。と言うのは「鉄」に塞がれた多数の凹状クレーターを固着させる必要があるからです。これだけ時間を与えてやると,小クレーター内の「鉄」は安定しますが、それだけでは熟成しません。しかし結晶化が確実に進展していることは間違いありません。
その後、こんどは1290度くらいまで上げて行きます。つまり、粘性の強い天目釉のせいで凹凸のある表面全体を溶融し、地をならしガラス化させると、結晶は輝くのです。亦思い切って1300度くらいまで持ってゆくことも可能ですが、そうすると、窯内に酸素不足や火流の淀む傾向が高まり、失敗の原因となる場合もあり、要注意です。」
とした上で具体的な数字でまとめている。
「第一段階  1000-1100度  約10時間維持
第二段階  1250度  約5時間維持
第三段階  1250度-'700度 約10時間を費やしながら降下
第四段階  700'1290度 約10時間を費やしながら上昇
第五段階  これより毎時100度の割合で降下
酸化焼成を基本とします。窯内は常に清浄な空気が入り、よどみなく煙突から燃焼煙の出る事が前提です。こうした過程をもってふまないと、結晶はえられません。ところがまたその結晶を輝かしいものにするには、還元の要素が絶対に必要となるのです。但しこの還元のタイミングに関しては、実は私、明確性のあるデータをもちあわせていません。」

あのきらきらは結晶化した鉄がガラス層に溶け込んだものと言うことらしい。
物を結晶化させるということはなかなか難しい。温度が低すぎれば融けぬし、高すぎればふたたび融けてしまう。鉄そのものの融点は1540度、それがこのような低い温度で析出してくるのは酸化鉄やケイ酸分の影響なのだろうか。

(参考資料の追記)
天目で思い出したのだが、木の葉天目の話が別の書であったので書いておく。
「釉に半ばしみこんだ葉の正体は焼ききらずに残った葉のケイ酸分。だから木の葉天目に使う葉はムク、ニレ、ケヤキ、イタドリなどがよい。
本焼 電気窯  酸化 1260度 28時間
杯の見こみに葉を置く。(なるべく日をよく浴びた厚手の物)
焼付け 電気窯  酸化 1230度 24時間
葉のケイ酸分が釉に溶け込み厚みのある葉脈はうっすらと表面に残る。1230度より温度が低いと葉がザラザラに残り、温度が高いと葉脈まで溶け込んで葉がきえてしまう。葉の焼付けは、試験用の小さな電気窯を用いる。ガス窯など炎の出る窯では炎の力で動いてしまう。」

以下は、私が創作?した釉薬ベンガラの還元雰囲気での変化
1)1050度あたりから四三酸化鉄への還元が始まる。すこしづつ磁性が出てくる。
2)1250度くらいで釉がかなりやわらかくなると同時に、還元が進み、酸化鉄の酸素が飛び出て孔を作る。同時に鉄が析出し始める。
3)鉄の結晶化は温度の上昇とともに進むが、1300度以上になると釉が均一層になり、鉄がふたたび溶け込んでしまう。
4)木の葉のケイ酸分は1260度くらいで溶けるが、この温度では釉全体の粘土はそれほどやわらかくないから、周囲と溶け合うことはない。
5)1230度くらいまで下げて暫くするとこのケイ酸分が固定化し、冷すと白い紋様で残る。しかし1260度よりすこし上げると、釉全体がやわらかくなり、木の葉もそれらにかき消されてしまう。
あたっているかなあ?

(木の葉天目・・・・素材で楽しい陶芸から引用)

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