63「薔薇の話」(5月14日 曇り)

T 薔薇の歴史と分類

薔薇の美しい季節である。
知人に薔薇の好きな女性がいて、いろいろ教えてくれた。
薔薇はもちろん、種からでも出来るが、花屋で売っているものは接木や芽つぎによってふやしたものであること、水揚げが悪いから、花屋で買ったときは切り口を焼いたり、つぶしたりする必要のあること、移植をするときは、春に根切りをして、根ののびない冬におこなうことなど、今まで知らなかったことが多い。
だんだん興味が出てきて少し調べてみよう、という気になった。インターネットで調べるが、まとまった知識が得られないので図書館から本を借り出したりする。

薔薇の起源は、はっきりとはわからないが、ヒマラヤ、カラコルム山系に発生し、風に吹かれて西に東にその分布を広げたのではないか、と考えられている。バビロニア、クレタ、ギリシャ、エジプト、ローマなど各文明の反映の中で薔薇はすでに欠かせぬ存在となっている。たとえばクレオパトラは宮殿に薔薇をしきつめてシーザーやアントニウスを迎え入れたという。
その後、ヨーロッパ文明圏は暗黒の時代を迎えるが、サラセン帝国の拡大、十字軍遠征などにともなって東方の新種がもたらされ、交配され、あらたな品種を生み出した。そして14-16世紀イタリアルネッサンス期にはボッテイチェリの「ヴィーナスの誕生」や「春」に描かれるなど、以前にもまして隆盛を見るようになった。

一方中国では、紀元前から月季花または長春花として薔薇が栽培されていた。その名前のとおり毎月のように花が咲き、開花期が長く、西洋薔薇には見られない四季咲き性をもっている。10世紀ころから薔薇の園芸栽培を行うようになり、18世紀以降はヨーロッパへも大々的に移出するようになった。
ナポレオン一世の妃ジョセフィーヌは、マルメゾン離宮に、フランス以外の各地からさまざまな品種を集め、二百十数種を栽培して、世界で始めて薔薇の人工交雑を成功させた。

以後、新種の薔薇が続々登場するが、1867年フランスの薔薇育種家ギヨーが、耐寒性の強いヨーロッパの薔薇(ハイブリッド・パーペチュアル)と四季咲き性中国薔薇を交雑させ、四季咲き性をもったモダンローズを成立させ、ラ・フランスと名づけた。これ以後、ヨーロッパ庭園の主流であった旧来のガーデンローズへの関心は薄れた。
日本でもすでに風土記に「茨棘(うばら)」と呼ばれる薔薇が登場し、それが茨城県の県名のもとになったことが知られている。日本の薔薇は歴史的には野花として愛されてきた。しかし幕末のころノイバラが日本からフランスに導入され、交雑に用いられるようになった。

薔薇の分類は、以上のような歴史的な背景を踏まえて行われる。
オールドローズというのはラ・フランス以前にあった系統のものをいうようである。原種、亜種、原種交雑種、栽培原種などがふくまれ、きわめて多岐にわたる。原種を別区分にする人もいるようだ。
モダンローズというのは外部形態により大きく三つに分けられる。
木薔薇には、ラ・フランスなどのハイブリッド・テイーローズのほかグランデイフローラ・ローズ、フロリバンダ・ローズ、ポリアンサ・ローズ、矮性種を交雑した、樹高わずか15-20センチのミニチュアローズなどがある。
蔓薔薇には、日本産テリハノイバラの改良種で花形が大きいクライミング・ローズ、テリハノイバラと四季咲き木ばらなどを交雑したランブラー・ローズがある。蔓薔薇は花屋でCL(Climb)と書いてあるから区別できるそうだ。
三番目がシュラブローズ。木薔薇と蔓薔薇の中間で、1.5-2m伸びると横にはうように伸びたり、沢山の花を房状につけてしなだれるなど半つる性を示す。
このほかにイングリッシュローズという言葉をよく聴く。イギリスの育種家、デイビット・オーステインによって作出されたもので、個人的なブランド名である。モダンローズでシュラブ・ローズの系統に近い。コルデジーもドイツの育種家コルデスによって作られたもので、同じ系統である。

最後に薔薇の色から言うと、青い薔薇が出来ないのだそうだ。黄色い薔薇は、リヨンの薔薇育成家ペルネ・デイッシュが、西アジア原生の黄花の野生種を元に作って以来、今では広く見られるようになった。緑色や黒い薔薇も存在する。
「あなたはイギリスに長いこと行っていたんでしょう。あちらは薔薇を懸垂状にしたりしてきれいだったでしょう。」
件の女性に言われて一本とられた感じがした。
そういえば昔キュー・ガーデンやストラトフォード・フォン・エイボンのほか、いくつかの薔薇の美しい植物園に行ったことがある。国内だって有名な旧古河庭園などは何度も行った。「きれいだな」とは感じはしたが、知識がなかったから、ぼんやり眺めただけだった。今から思うとちょっと残念な気がする。今度こそ・・・。
今回は、一通りの知識をなでてみたが、その辺に咲いている薔薇がどれに属するのかまだわかるわけではない。ただ形状と美しさをのみ楽しみ、蔓薔薇と立ち木薔薇の区別がやっとできるようになったばかり・・・。まだ薔薇学は幼稚園生にもなれそうもない。
皆さんはいかがですか。

ところでこのエッセイを読んでガールフレンドのAさんはこう言いました。
「理論は分かるけれど、薔薇に対する愛情みたいなものが感じられない。」
件の薔薇好きの女性は
「薔薇についてエッセイを書け、と言われたら、私なら「百万本の薔薇」の歌詞をまず書くわ。次に薔薇に対する私の思い入れを書いて、それから本論だわ。」
恐れ入りました。エッセイ道は難しい!

U「薔薇の展覧会」(5月17日 雨)

五月というのに、うっとうしい天気が続いている。
件のバラ好きの女性に「西武ドームでバラの展覧会を22日までやっている。」と聞いて、昼ごろ、ぶらっと出かけた。
正確には「第4回国際バラとガーデニングショウ」という。
ドーム球場のグラウンドを見本市のようにブース割して会場にしている。終わればすぐに撤去して野球場として使うのだろうから主催者は大変だろう。観客席がちょうどいい休憩所といった感じで、そこで食事をしたり酒を飲んだりしている者もいる。結構な人出で、通路がせまい「香りのローズアベニュー」など一時の銀座並みの混雑、一度入り込んだら人ごみから抜け出すのに大変なほどだ。
壁際を使ってコンテストが行われている。
鉢植え部門、つまり立ち木型のばらが一番興味があった。アンテイーク部門、フロリバンダ部門、ハイブリッド・テイー部門に分かれている。
アンテイーク部門はオールドローズとイングリッシュローズ。これらの多くは一季咲性あるいは返り咲き性らしいが、葉や花の形状、色、模様などで、フロリバンダなどとどう区別するのか、私にはよくわからない。物の本には「優雅で繊細な風情を持つ。」とあるがそういわれてみればそういう気もするくらいだ。
ハイブリッド・テイーというのは大輪四季咲性で、バラの代表的な系統。一本の茎に一花咲くのが基本。一つしかつけないからか、とにかく見事な大輪を咲かせる。バラは花形でも分かれるが、真っ赤な剣弁高芯咲きのものなど、バラならこれだ、これなら「沢山いらない、一本でいい。」と思わせるほど立派だ。
フロリバンダは中輪四季咲性で、房咲きに花をつけるものもあり、ヴォリューム感が豊かである。樹高もハイブリッド・テイーに比べて少し小さめである。中ほどに橙色の中ぶりのバラがあり、プリンセス・ミチコと名づけてあった。
ものの本によると「デイクソン/1966年/イギリス 黄色みをおびたオレンジ色から開花につれて濃いオレンジ色になる。花弁数13-15枚。花径9cm。樹は1.2-1.5mになる。耐病性に優れ、フロリバンダ系では名花のひとつ」このバラにまつわるエピソードがあるらしいが知らない。
「香りのローズアベニュー」に行く。ここは金物でアーチを作り、いわゆるつる性のバラで飾っている。入り口付近に青と紫とも言いがたい中ないし小ぶりのバラがいくつか咲いていた。ラプソデイ・イン・ブルーとあった。
青いバラ・・・・それはバラ育成家の夢らしい。この色のバラだけが出来ないのだという。ラプソデイ・イン・ブルーやパンフレットに載っている青龍は今一歩というところ、確かに青いとも言えるが、ぬけるような水色というわけには行かない。
ところでこの通りはタイトルではバラの香りを楽しむことが目的のはず。しかし人いきれでそれどころではない。仕方がないからみんなワン公よろしく花に鼻を近づけてクンクンやっているけれどどうも様にならない。
ほかにミニチュアローズ、切花、ハンギング・バスケットなどのコンテストも行われていたが、私にはなんとなく傍流のように思えた。ミニチュアローズは言ってみればバラの盆栽でバラののびやかな感じが失われているようだ。ハンギング・バスケットは花を使って表現するアート大会とでも言ったほうがふさわしい。
むしろ庭のコンテストのほうが面白い。限られた空間にバラを中心にどんな花を咲かせ、雰囲気を作り上げるかそれぞれの思いが自由に表現されているように思う。
お客はプロの植木屋らしい男もいたが、断然中年の女性が多かったように思う。おばさんたちはバラの花を楽しんだ後、うれしそうに鉢植えなど抱えて帰路についていた。

ところで会場でなんとN證券が「資産管理セミナー」などやっていた。あれはムードがない。しかしバラの香りを楽しむためにも、先立つものが必要、というわけか。

(参照)
鈴木 省三 「バラの育て方」 成美堂出版
日本ばら会編 「バラ」NHK出版
バラの実物の写真は以下のホームページなど参照
http://member.nifty.ne.jp/oldrose/khome97/OLDTOP.HTM
http://www3.wind.ne.jp/f-saito/hana/rose/rose.htm
http://argent.hoops.ne.jp/nf-park/park_rose.htm

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