635「あなた寝像を教えて・・・」(2月16日(土)晴れ)

江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」は、大口を開けている男に、天井にあいた節穴からモルヒネをたらしこんで殺す、という設定である。有栖川有栖の同名短編は、大宅が「連続殺人犯は大だ」と日記に書き付けた後殺される。探偵は大が寝像をあらわしていると推理し、屋根裏に上って観察する、という設定である。どういうスタイルで寝るか、寝るときの姿は、なかなか気になるところだがみな話さない。

和室に蒲団を敷く。真ん中上部に枕をおく。きちんと真ん中でなくてはいけない。
寝たときに左右の手が敷布団の両端に触れる。そのときに右と左で触れる位置が違うと気になって仕方がない。体全体も蒲団に対してまっすぐにしないと気持ちが悪い。
また、今は冬、寒さが厳しい。家庭では綿入れ半纏を着ている。寝るときにはその半纏を首の辺りを枕につけておき、裾を蒲団の外に出す。
布団にもぐりこむ。半纏の右手部分と左手部分を耳に押し付けるようにして蒲団の中に取り込む。すると頭がすっぽり半纏にくるまれる形になる。このとき毛布と半纏の袖の間に少しでも隙間が出来ないようにする。開いていると寒さが身にしみる。
仰向けになって暗い中で天井の蛍光灯を見つめるスタイルになると睡眠スタンバイ。

横向きや下向きもトライしたがうまく行かない。
下向き、つまり腹を敷布団につけて寝る方法は自分の世界に浸れる感じがする。その点ではいい。しかし顔を真下にするわけには行かないから左右何れかに捻ることになる。暫くすると首が痛くなって、動かざるを得ないから目が覚めてしまう。しかし稀に首が痛くなる前に眠りに落ちる事がある。これは大正解。
左右に横になる方法も何度も試した。この場合、問題なのはひざである。左右の膝をまともに行ったら重ねることになる。すると痛く感じるからずらすのだが今度は何とも言えない違和感が出て気になって仕方がない。
目を閉じた後の問題点は邪魔。眠りにいたる道はジットして動かない状態が続き、だんだん意識が遠ざかり、最後に完全な眠りに入る。その間トイレに行きたくなったり、電話が鳴ったり、鼠の走る音が聞こえるなど眠りを阻害する要因が入ると起き上がりたい衝動に駆られる。気になったら眠りの道は3分の1中断、目を開けたら半分中断、起き上がったら完全中断、そして振り出しに戻ってしまうのである。
正常に仰向けになった場合の問題点は唾や痰。不思議に口や喉たまってくると、こんなものでも気になりだす。息が詰まりそうでたまらぬから、蒲団から手と出して枕もとのテイッシュペーパーを取る。眠りへの道がとめられるのは言うまでもない。

目を閉じて心を落ち着け、眠りの道をひた走るには具体的にはどうするべきか。
「羊を数える」と言うのは子供の頃教えられた。イメージしながら一匹、2匹,3匹と数える。しかし10匹やそこらで眠りにつくわけもない。そこで10匹単位で右の指を1本折る。100匹いったら左の指。これは途中でやめなければ大体寝られる。
足先、手先に一本、一本力を入れてみる、というのは高等学校の物理の先生が教えてくれた。これも時には有効である。
私が子供の頃からやっている方法は、物語を作る方法である。この家の仏壇の裏をイメージする。小さな抜け穴があった。そこを潜り抜けると山道に出た。月夜の山道、左右は千尋の谷、左は崖、向こうから何やらのっしのっしと足音が聞こえる。岩陰に身を潜めると仁王様を先頭に神様が行く。震えながら神様をやり過ごして・・・・という具合である。もっとも神様でなく、若い女性で、早速いいムードになって、などとあらぬ方向にイメージが走るとかえって寝られなくなってしまうから問題。

そうして眠りに落ちた結果、君の寝相はどうなんだ、口をあけているのかだって?眠っている私自身を観察した事がなく判らない。ただ私の寝方が孫娘より静かなことは確かだ。孫娘が来た翌朝、彼女が2枚の敷蒲団を占領し、自分は蒲団からころげ落ちていた。

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