649「「漢字は日本語である」を読む」(4月7日(月)晴れ)

新潮社から「新潮日本語漢字辞典」という書物が出た。従来の漢和辞典は、漢文を読むための辞典であった。ところが現代の日本人が接する漢字はあくまで日本語で使われる漢字である。漢籍から取った文字・熟語を基準に作られていたが、日本語の漢字を調べるために、日本語に重点を置いた漢字の辞典を作った、と言う。
すでに9500円で書店に並んでいる。この本はこの漢和辞典を企画し、完成させた著者の手になる。執筆、編纂を通して、色々学んだが、特に痛感したのは「漢字は日本語である。」ということだそうだ。確かに漢字は中国から輸入されたが、長い間に中国にはない訓読や送り仮名という画期的なシステムを開発し、見事に日本語に組み入れてしまった。さらに日本に独特の熟字訓の世界を花開かせた。

漢和辞典は中国の古語を読むための辞典であるからたとえば公孫樹、秋桜、山車、殺陣などは出てこない。漢和辞典には訓読する熟語もほとんど載っていない。町と言う字には中国では田の道の意味しかないからほとんど説明されない。
部首も分かりにくい。問、聞、悶、閣、閥、閲のうち門がまえになるのは後の三つだけ、最初の三つは口の部、耳の部、心の部に分類されている。これは部首は基本的に漢字の意味を表す部分、意符の部分をととることになっているからだ。この部首の概念を作ったのは中国で、紀元100年頃最初の漢字辞典「設文解字」を作った許真と言う人でそれが未だに尾を引いている。
中国から日本に伝わり、時代を経るうちに混乱も見られる。
吉野家の吉の字、上半分は士か土か。現在では前者だが昔は後者だった。その結果吉野家の看板の吉は実は後者である。斎藤、斉藤の違いはどこか。元来斎と斉は全く違う字なのである。前者は「サイ・いつき」と読んで神仏につかえるために身を清めること、後者は「セイ・サイ・ととのえる・ひとしい」と読んで、どれもそろって同じである。「均斉」「一斉」「斉唱」さらにこれに旧字の齋がからむからややこしい。竜と龍、己と已と巳なども区別が判然としない。大阪の阪はかっては坂だった、いつから変ったか。この辺一つ一つは本文を読んでいただくよりほかはない。

薀蓄が次々と展開されるが私自身が一案教えられた話を一つだけ。学校の学などに使われるツの部分。これには実は「ツ」を使う字と「小」をさかさまにした字の2種類がある。前者は常に小を書くグループ、賞、掌、党、当、消、鎖などと光をもとにしたグループ、光、晃、輝などに分かれる。後者は学の旧字のように臼に似た形の真ん中にxが二つ入っている形を「ツ」で略したもの、労のように「火二つ」であったものを略したもの、単のように「口二つ」であったものを略したもの、桜のように「貝二つ」であったものを略したものなど6種類に分かれるという。

常用漢字、人名用漢字、JIS漢字。日本国民が本気で漢字制限にむきあったのは、マッカーサー支持に基づく1295字の常用漢字表だ。新聞社などの意見が出てすぐに否定されてしまった。昭和24年にようやく1850字に当用漢字表が作られた。現在では1945字よりなる昭和56年の第四の「常用漢字表」が生きている。実際はこれ人名漢字が983字加わっている。この間には表音派vs表意派の果てしない綱引きがあったようだ。
平成17年の文部省の諮問以来検討が加えられており少し変る。今回の見直しの目標は「OA時代への対応」だそうである。日本工業規格で定めた漢字コード規格JIS漢字を用いる。第二水準までいれて6000字あまり。さまざまな問題をクリアーしながら、パソコン、携帯電話等あらゆる分野で使われており、そちらとの調整が課題のようだ。

最後に漢字を学んでいるものとして不満。色々改定するのはいいが、旧字体と新字体が混じるなど混乱していて実に困る。朝日新聞はかって「鴎外への冒涜」なる記事をのせた。鴎のへんは「はこがまえに口三つ」、涜もつくりは「士に買」が旧字。これに続き、しばらく朝日書体として「鴎」「涜」を使ったが、元に戻した。朝日流で書いて正しいと認めてくれるかどうか・・・・そこのところは書いてない。
・・・最後に、君は新しい漢和辞典を買うか、だって?ウーン、お財布と相談!

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