663「何が衛生的か?」(5月1日(木)晴れ)

珍しく、比較的安く黒鯛が魚屋に並んでいたので、三枚におろしてもらって買ってきた。
持ち帰って、刺身にする。小骨を取り、皮をむいてきれいに切り分けなければならない。皮をむくとき、魚屋は上手に包丁の力を利用するが、こちらは皮の端を持ち、身を押さえつけて、文字通り力任せにひっぱがす。作業をしながら、手は洗ったけれど、余り衛生的とは言えないなあ、と感じる。一緒に食事をしながら、この話をガールフレンドのAさんにすると「不衛生!」とのたまう。「しかし、すし屋だって同じじゃないか。ぎゅ、ぎゅっと手のひらと指で形を作る。」ケーキなどを作る職人は、普通ビニールの手袋をして作業している。いかにも衛生的?しかし寿司職人はそんなことはしていないと思う。
「大体、店に並んでいる刺身なんか、どんな包丁で切ったか知れたものじゃない。」すると彼女の答えが振るっている。「切ってある刺身は、水洗いして出すんじゃないの?水は衛生的なのよ。」そんな、水っぽい刺身が食えるか!

作りおきの林檎ジャムがなくなってきた。ジャムはこのごろ自分で作るときが多い。なぜといって買ってくるジャムは水やゼラチンを使って膨らませてあるのか薄い感じがする。八百屋に夏みかんが並んでいるから、夏みかんで作ろうか、するとマーマレードというやつだ。しかし彼女は「いつか問題になったことがあるじゃない?農薬がついているかもしれない。」「しかし静岡産と書いてあった。国内産だから大丈夫だろう。」「そうね、じゃあ、水で洗えばいいかもしれない。」水で洗って農薬が落ちるか、と気になったが、葉物の野菜なんかだって同じ条件だ。採用することにした。

フライパンで炒め物をする。終わると無条件で洗う。油は水だけでは落ちないから、洗剤をつけて洗う。最近少し疑問を持っている。果たして洗う必要があるのか。フライパンは大体毎日使う。すると油をつけたままであっても、油が腐るという心配はない。それに引き換え、洗剤で洗うと、排水は汚れるし、油は無駄になるし、大体フライパンに洗剤が残りかねない。すると次の料理のときに一緒に調理されて口の中に入るわけだ、果たして健康に悪影響はないのか?同じことが自動炊飯器の釜についても言える。ご飯が炊きあがって食ってしまうと習慣で釜を洗う。あれだって必要ないのではないか。

一度人の箸をつけたものは不衛生である、よって食べるべきではない、とはどこから始まった習慣なのだろうか。これも場合によっては少々潔癖すぎる判断のようにも思える。
しかしあの吉兆・・・・・。客の食べ残しの再利用とはすごいことをやってくれますね。保健所の職員の応対がふるっている。「法律的にいけないとはいえないけれど、伝染病などがうつる可能性があります。それゆえ、そういうことをしないように指導します。」

中華料理は客の残した料理の再利用を前提にしていると聞いた。中国人は人の作ったものを信用しない。その代わり必ず加熱・調理して使いことにしている、と聞いた。これは毒入りギョウザには効果がないかもしれないが、大抵の食材には有効な方法だ。
会社で私の同期の男は、豪傑で、学生時代隣の客が残して帰ると、ウエイターを呼んでこっちによこせ、と言ったという。残したものも本人納得ならいいのかもしれない。しかし吉兆が使いまわしたものはナマの野菜だったり、刺身だったりしたらしい。すると加熱という工程が無くなってしまっているわけだ。もちろん客が納得しているわけはない。

けしからん、と思う一方で私は今迷っている。あの吉兆がやっているなら、ほかのところも結構やっているのではないか。これからレストランや旅館で食事をするときに、そっと責任者を呼んで聞くべきか。「おたく使い回しはしてないでしょうね。この刺身は昨日の客が残したものではないでしょうね?」

追記 吉兆が、オカミの涙の会見と共にとうとう廃業に追い込まれた。世間は、必ずしもお役所のように杓子定規ではない。賞味期限をそっと張り替えていた、牛肉の産地偽装があった、くらいのことは、時がたてば許してくれるる。許すかどうかは、黙って時間をかけて考えて決める。不ニ家、赤福、白い恋人、みな許されたように思う。しかし牛肉のミートホープばかりは許さなかった。安くできると吹聴したそのやり方に、反発したのだと思う。
吉兆の場合、途中までは世間は許した。この場合の世間は、関西の財界だったらしい。しかし「つけまわし」ばかりは、日本人の衛生感覚として許せなかった、ましてそれが超高級料亭とあっては・・・・。そんな風に考えられないか。

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