668「Born to win(勝つために生まれてきた)」(6月9日(月)晴れ)

秋葉原で信号を無視したトラックが通行人をはねながら交差点を渡った。車が止まるとなかからナイフ片手に男が出てきた。男は次々と人を刺していった。わずか5分の凶行で死者7人、重軽傷者10人余り。
男は、去年の秋から派遣社員として裾野市の関東自動車工業に派遣されていた。3日前に会社に来て作業着がない、と騒いだ。そこで連絡を受けたものが持ってゆくと消えていた。翌日は無断欠勤。そして今日の犯行である。世の中、何もかもがいやになったそうだ。
男は自分のブログを開設し、そこに会社への不満などをいつも書き込んでいた。そして1日前には「秋葉原で人を殺します。トラックで突っ込み、動かなくなったらナイフを使います。」と犯行予告を書き込み、さらに「東京都に入った」「秋葉原に着いた。」「時間です」などと実況中継デモするように自分の行動を書いている。
自動車学校のようなところに通い、それなりの技能を身につけていた。収入は月20万くらいであるが、会社が面倒を見てくれるマンションから通うのだから、独身であることを考えれば格段金に困っているというわけではない。学校時代の友人たちは、時に切れることがある、と指摘するもののおとなしいごく目立たない男だったようだ。

私は何とはなしにこの前のマンションOL殺人事件を思い出した。OLがマンションから消えた。帰宅したことはわかっているが、防犯カメラの写真を分析したところマンションからでた様子がない。警察はマンション中を聞いて歩くが彼女がいる様子も、死体が隠されている様子もない。まさに推理小説顔負けのミステリーであった。犯人は一軒置いた隣に住む30代の男であった。死体を切り刻んで一部はゴミとして、一部はトイレから流して捨てた、というのである。下水道を探してようやく人の骨らしいものの一部を見つけ、DNA鑑定した結果彼女のものとわかったらしい。その彼も派遣社員、優秀なプログラマーであったらしい。
彼は逮捕されて「女なら誰でもよかった。」と供述しているという。とにかく一度暴行してでも女というものを自分の言うとおりにさせたい、と考えたからなのだろうか。

今回の場合は一度世間から認められたい、英雄になりたい、という願望が強かったのではないか、と専門家は分析しているようだ。おとなしい、よい子であるがゆえに騒がれたい、という欲望は人一倍強かった?・・・・・。
しかし襲われたほうはたまったものではない。一瞬にして幸せな人生が暗転する。「私に何の関係があるの。死ぬなら一人で死んで・・・・」と考えるのは当然だ。心からご同情申し上げると共に、わが身にも何時かああいうことが起こるかも知れぬ、と恐くなる。

事件の原因など報道すらすべて知っているわけでもない私たちに語りようがない。
しかしそこを承知であえて語れというなら三つばかり上げたい。私は、彼が自分のサイトに書き込んでいた「自分などいなくなっても何の影響もない。」という文言に注目する。
人間は所詮弱い動物だ。何かに頼り、何かに頼られていると感じ、将来こういうことができると夢を持って生きてゆけるのだ、と思う。

その点でまず家庭内に問題がなかったか、と感じる。
子供が、まず認められたい、と願うのは親で、兄弟姉妹がいた場合には愛情の獲得競争になる。敗れると、家庭内でドロップアウトし、本人はコンプレックスをもち家庭を怨むことになる。そこが親として、結構難しいところなのではないか、と思う
次に感じるのは現代社会の殺伐とした人間関係だ。出生率が、沖縄のある島が特に高い、逆に大都市は依然として低い、というような放送をしていた。沖縄は、確か一人当たり所得の全国で一番低い県、ときいた。そんなところで出生率が高いのは「子供が生まれてきて大事にされる」というよい意味での家族主義が残っているからではないか。都会はその逆、私のアパートでも隣は何をする人ぞ、大家の顔すら覚えてもらえぬ、そんな人間関係になっている。

三番目は派遣社員という立場だ。派遣社員がいけないのは、帰属意識ができないからだ、と感じる。正規雇用の社員は、会社や組織に参加することにより、そのチームの一員と感じ、そのチームのために働き、そこで認められようとする。高度成長時代、猛烈社員のことを「同期の間の出世競争」と誰かが揶揄した。仲間内で認められたい、という欲望は、それほどに強い。しかし派遣社員は、多くの場合、最初から競争の対象外なのだ。そこが、自分がいてもいなくても同じ、という絶望感を生むのではないか。

若いときにBorn to win という英文の本を読んだ。英語の本でほとんど覚えていないけれど、このタイトルが実にアメリカ的と感じたことを記憶している。人間は勝つために、言い換えれば認められるために生まれてきた、達成されないとわかると悲しい。もちろん、そういう状況でもほとんどの人は生き抜き、問題なぞ起こさないのだけれど・・・・。

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