674「高速水着の話」(7月3日(木)晴れ)

2日夜のNHKテレビ「クローズアップ現代 徹底解剖「高速水着」」は、スピード社の水着を着用した選手が次々と世界新記録を打ち立てているが、その水着の秘密に迫るもので、私にとって、大変ショッキングだった。

私はスピード社の水着は浮き袋の一種ではないか、と考えていた。
理由の一つは選手の一人が浮くように感じた、としている点だ。
もう一つはデサントやアシックスに素材を提供している山本化学工業のホームページである。
微細な気泡でできた素地に、抵抗の少なくなるような表面を貼り付けているように見えた。
さらに従来水着は小さい方がよいと思われていたのに、全身を覆うようなものの方が、記録が伸びると聞いた。スピード社のものも同じではないか。
そんなことを考えながらもしかしたらスピード社の水着はビート板に乗って泳ぐようなものではないのか、それなら背泳ぎ用とクロール用の水着は変えたほうがいい(前者は背、後者は腹の部分の布地を厚くする)と考えたものである。

知り合いの東北大学のA先生が時々ご自分の書かれたエッセイを送ってくださる。
これに先立って先生もこの問題を取り上げた。
先生に寄れば、水中をある速度で動く物体の受ける抵抗は
抵抗=1/2*密度*速度の2乗*面積*Cd(Cd=摩擦抵抗係数)
プリウスという自動車がある。プリウスのCd値は0.26である。
Cdをプリウスと同じとして、水泳選手が泳ぐときの抵抗は、身長2m、肩幅60cm、胸厚さ30cmとすると5.9kgとなる。(ただし泳ぐときには手足を動かすから少し変わるかもしれない)
水着によって左右される抵抗は、この抵抗(形状抵抗)の一部で粘性抵抗と呼ばれるものである。
粘性抵抗=1.32824*肩幅*(速度の3乗*密度*身長*粘性係数)の平方根
この式で計算すると水着の受ける抵抗は約0.22kgとなる。(全体の抵抗の4%)
しかしこの値が北島の世界記録を可能にした、と先生は結論されている。
さらに先生は次のメールで、魚のCd値が極めて低いこと、先生の研究所で設計したエコカーがプリウスに比べずっと低いことを指摘された上、ゴルフボールの話をされている。
ゴルフボールの表面にはデインプルがついているが、あれは流体力学上の工夫である、あの無数のくぼみが飛球の周囲に乱気流を起こし飛距離が出る、と解説される。この話は物の本で読んだから知っていて興味深かった。

先生のエッセイに、私は自分の考えを述べたメールを送ったが、間違いだったようだ。
NHKの放送は、イギリスのスピード社を訪ねて直接開発担当者に話を聞くまでしている。彼らは航空関係の学者等と検討のうえ、伸縮性の少ない板を押し付けて、人間の体をできるだけ抵抗の少ない形に変えてしまうことを考えたようだ。乳房のように出っ張っているところに板を押し付け、平らにする、背中の溝に脇の筋肉をよせるような工夫をしたのだそうだ。そのため、最初は板が大きすぎて水中で身動きが取れないようなケースも出た、しかし運動性能とのバランスを考えながら調整した結果、現在のような形に成った、というのである。

ただ私はこれ以外にも担当者が何か話さない秘密があるような気もした。体が浮くような感じがする・・・・たとえばそのような姿勢を矯正するバンドのようなものを使っているのではないか、浮力も小さいとはいえ利用しているのではないか・・・・・。

この放送中「しかし水泳はごくシンプルなものだ。泳ぐ技術よりも水着の競争になるようなことでいいのか。」との議論があった。しかし別の論者は「実は世界記録が出るということは商売の上で大切だ。今後もこれが否定されることはないだろう。」と述べていた。
スポーツの記録がのびて人類の運動能力や技術が伸びた、と考えるのは嘘かもしれない。単に道具が進歩したからかもしれない。たとえば棒高跳びのポールは最初は竹であったものが、チタンに変わり、最近は炭素繊維に変わるなど大きな変化をへた。その結果あんなに記録がのびたのではないか。ほかにも靴の進歩、競技場、練習方法の変化は陸上競技の記録を変えたろうし、ゴルフクラブ、テニスのラケットなどもみんなこの類だ。

水着もこの範疇に入るというべきか。とすれば抜け目のない日本の会社のこと、きっと日本製のもっとよいものもそのうち出てくると確信する。また水泳競技では、この水着は許されるだろうが、大きない浮き袋や鰓は禁止されている。禁止すべき範囲と許される範囲の境界線はどの辺にあるべきなのか・・・・この辺は又なかなかに難しい問題に見える。

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