気候のよい秋の日曜日。私は少し日常と変わったことをしようと新宿にでた。歌舞伎町の映画館では「おくりびと」「崖の上のポニョ」など。私の好みではない、と探すとミラノ座で「宮廷画家ゴヤはみた」なんだか「家政婦はみた」なんてテレビ番組のもじりにもみえるけれど、これに決めた。時間をつぶすにはマックの100円コーラ、11時前に入場。
キリスト教の異端審問所。スペインでは15世紀に設けられ、全国で多数の人々が捕らえられ、様様な拷問を受け、火刑に処せられた。その首脳たちが、宮廷画家ゴヤのグロテスクな絵をみつめ、スペインはおろかヨーロッパ各地に流れている、と対策を協議しているシーンから始まる。ところが、功名心にはやるロレンソ神父は「この絵をもとに異端者を探し出し、異端審問活動を強化しよう。」と立ち上がった。
1792年、マドリード、46年生まれのゴヤは、すでに宮廷画家として王妃を描くまでになっていた。そのゴヤが手がけていた二つの作品が、ロレンソ神父と裕福な商人夫婦の一人娘イネスの肖像。ところがロレンソ神父等は、豚肉を食べなかったという理由でイネスを捕らえ、異端審問所に送り、拷問にかける。
娘が捕らえられたと知った商人夫婦は、ロレンソ神父を招待し、教会に寄付を申し出ると同時に娘の釈放を願う。「娘さんはユダヤ教徒であると告白した。」「拷問をかけられても、神を信じていれば、そんな告白をしない。」と抗弁するする神父。ごうを煮やした父は、神父をつるし、「自分は猿である」との文書に署名させてしまう。「これは娘が帰ってきたら燃やす」の言葉に送り出された神父は、審問所長に娘の釈放を願い出るが、原則は曲げられぬ、と所長。一方でロレンソ神父は、牢獄のイネスを訪問。慰めつつ関係してしまう。父親は、文書を国王に提出する。ロレンソ神父は、逐電し、審問所側はゴヤの描いたロレンソの肖像画を火刑にかける。
それから15年、この転換が実にドラマチックにできている。
ナポレオン軍の侵入。其の一方の旗頭にかってのロレンソ神父。「自由、平等、博愛」を旗印にしながら、残虐行為を繰り返すフランス軍の正体は、侵略者でしかない。しかし彼らは、異端審問所を廃止した。ようやく開放されたイネスは家に戻るが、家族は、皆殺しにされていた。変わり果てた姿で、耳の聞こえないゴヤを訪ねる。「子供を捜してほしい」・・・実は彼女はロレンソの子供を、あの牢獄で生んだのだ。ロレンソは、今は結婚し幸せな家庭を持っていた。ゴヤが面会させると、彼は無情にも事実無根とし、イネスを精神病院に送る。それをゴヤが攻めると、ロレンソは、今は死刑を待つ身となったかっての審問所長を訪ね、命と引き換えに娘の行方を追う。アリシアという其の娘は、公園で売春婦をやっていた。
ナポレオン軍は、ナポレオンの兄ジョゼフを王位にすえるなどするが、市民がイギリス軍と共に蜂起し、其の支配は続かない。異端審問所は再開され、ロレンソは捕らえられる。彼によってアメリカに送られかけていたアリシアは自由になるものの・・・・・。
公式サイトに監督ミロス・フォアマンのメッセージが掲載されて入る。
「・・・・この映画の背景は、18世紀後半から19世紀初頭のスペインなのですが、その時代に起きた事が、私自身が20世紀に体験した事と共通しているのです。全く罪の無い人々が捕らえられ、罪を科せられ、そのために勝手に裁かれて、死刑を宣告される。そしてその犯してもいない罪のために死刑になる。殺されてしまう。あってはならない事が、まかり通ってしまう。そんな事が起こっていました。そして、時を経た20世紀、皮肉にも権力者、支配者達の拷問の手口はさらに巧妙になり、無実の人々が自らの死を懇願するように、死刑を望むように誘導してゆく現実を、私自身が目撃してしまいました。我々が現在生きている21世紀には、そんな理不尽な事が人類社会から無くなっているでしょうか?・・・・」
ロレンソ役のバビエル・バルデムは、カナリア諸島生まれの現代のスペインの名優とのこと。イネス役のナタリー・ポートマンは、1981年イエルサレム生まれ、母がアメリカ人で幼いときからアメリカで修行し、「スターウオーズ」などでも活躍したとのことである。
マドリードにあるプラド美術館に、私は確か2度行ったことがある。ヴェラスケスと並んでゴヤは、スペインを代表画家、其の作品がたくさん展示されている。ブランコ遊びなどを描いた華やかな宮廷絵画と、赤ん坊を食べる男だの雲の上に突き出た魔人の絵など、暗い恐ろしい絵画との対比が印象に残った。ゴヤ自身は、多少実際とは違った形で描かれているらしいが、それでもそれら絵画を描いた気持ちが時代背景と共にわかったような気がした。
非常に優れた映画と思った。皆さんにもご覧になることを勧める。後で知ったところこの映画は昨日公開されたばかりだそうだ。
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