70「久しぶりに娘」(4月7日 晴れ)

2日前のことである。電話がなった。嫁いだ次女殿からである。
「ねえ、明日の晩そっちに泊まっていい?」
「ああ、いいよ。」
「お布団、干しておいてよ。それからシーツ洗ってあるかしら」
「わかった。シーツは洗ってあるよ。」
翌日、布団を干し、二階のいつも次女殿が寝る部屋に放り込んでおく。
夜8時ころ、玄関をガチャガチャさせる音。でるとテニスバックをぶらさげた次女殿が立っていた。相変わらず、元気な様子で、世帯やつれを感じさせない。
「おお、元気か。彼はほっといていいのかい。」
「うん、カレーを置いてきたわ。大丈夫よ。ちゃんとメンテナンスしているから。」
こちらの心配を先回りして答えてくる。
「ねえ、部屋に荷物、置いてきていい?」
「ああ、いいよ。」
どたどたと階段を登ってゆく。玄関に、脱ぎ散らしたテニスシューズが、喧嘩した夫婦みたいにそっぽをむいて転がっている。
しばらくすると次女殿が降りてきた。
「コーヒー、飲むかい?」
「うん。」
私はお湯を沸かし、フィルターでコーヒーを2杯入れる。それを、しずしずと茶の間に運ぶ。次女殿はめざとく缶の中のクッキーを発見し、ぱくついている。
「ミルクある?」
「あるよ。」
「消費期限切れじゃないでしょうね。」
「昨日買ったばかりだ。」
「なら、ちょうだい。」
私はブランデー、彼女はミルク入りで飲む。
「最近何か変わったことあるかい?」
「別に何もないわ。」
昔の話などに花が咲き、しばらく歓談。
大学に入って勉強やスポーツが面白く感じた。あのころが一番充実していた。男の人には余り関心がなかった。今は仕事が結構忙しい。彼とはすれ違いになることが多い。でも大事にしてくれる・・・・・。
「いつになったら子供を作るんだい?」と大いに聞きたかったが抑える。こういうのはセクハラで、本人は充分自覚しているんだから女性を傷つける、とかなんとか誰かが言っていた。でも、あいづちをうつだけでいいのかなあ?
「ねえ、もう一杯、コーヒーもらえないかしら。」
私はまた台所に駆け込む。
「お風呂、沸いている?それからお布団は?」
「ああ、お前が来るんで、水を張り替えて沸かしておいたよ。布団は別になっている奴を使えばいい。」
「ありがとう、じゃ、おやすみなさい。」
翌日、朝、私はもうとっくに朝食を済ませている。雨模様の天気、そうでなければテニスに行くのだが・・・・。8時すぎに次女殿が降りてきた。
「朝食はどうする?何か作ろうか。それとも外にでも食いに行くかい。」
「外に食べに行くのがいいわ。その後、荻窪まで車で送ってくれないかしら。」
「わかった。今日は何するんだい。テニスでもするのかい。」
「うううん。吉祥寺に行って髪をきるのよ。ねえ、出かける前にコーヒーくれない?」
「ああ、いいよ。」
またコーヒーを飲んだ後、彼女は二階に荷物をとりにいった。私はその間にコーヒー茶碗を洗う。次女殿、ふたたびおりてきて
「ねえ、シーツ、また洗っといてね。洗濯籠に入れておいたわ。」
洗濯籠があふれている。「ジョナサン」に行く。次女殿はとろろ汁定食をうまそうに食った。それから私は彼女を荻窪に送ってゆく。
何だか、ずいぶんこき使われているみたいだなあ。しかし娘の勝手を嬉々として聞いているおれもおかしいのかなあ。娘・・・・・なんとなく男親にはまぶしい、こそばゆい存在!
しかし彼女は何で突然来たのかなあ?

このエッセイをガールフレンドのAさんに読んで聞かせた。
「ここにくると、いつも食器を洗わされるわ。私にもこんな風にして頂戴よ。何さ、娘に命令されて、嬉々としてコーヒーをいれてやり、やに下がっているだけじゃないの。」
まだ、彼女には娘というやつは家に戻ったら父親の面倒を見てやるべきものだ、くらいの古い観念があるようだ。
それにしても、女性というのはなかなか扱いにくい存在であります。

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