スポーツクラブでよく見かける男。毎日熱心に来ており、筋肉隆々としている。坊主狩りで鼻が赤い。私より一つ下だと言っていた。「いまだに現役だ。」と威張るから「何をやっているんだ。」と聞いたところ「週に2回、学校の用務員をやっている。あれは一日暇ですきなことをやっていられる。それに先生は物知りだから勉強もできる。」そういうものか、と思った。
此の前「熱心に来るね。」と聞いたら「朝食が終わってくつろいでいると、女房が箒を持ち出し「何時までそこにいるの。さっさとどこかへ消えなさいよ。」と邪魔扱いする。」。なかなか暇だが、体力はあまっているタイプかもしれない。
いつか白菜の漬物の作り方をサウナで延々と講義した男がいた。彼はそれを聞いてさっそく作ったらしい。その辺自分でやってみようというところはすごい。「白菜はうまくできたかい。」「できたことはできたんだが・・・・」「何か不満でもあるのか。」「朝から晩まで白菜の漬物だらけで閉口している。」そういうものなのだ。独り者の私にはよくわかる。
本質的には気のいい男なのだと思う。彼は最近この秋サウナで知り合った男たち数人でタイに行ってきたそうだ。今日も彼とサウナで一緒になった。
「体の調子はいいかい。」「最近時々胸が使えるようなことがあるんだ。」
すると右隣に居た男が会話に割り込んできた。赤ら顔、60歳くらいだろうか。
「そりゃあ、いけない、早いとこ、医者に見てもらえよ。金勘定ばかりしてないでさ。」「金勘定は余計だ。」と赤ら顔氏がぼやく。彼とどの程度知り合いなのか分からぬ。
「実際に体がおかしくならないと行く気にならなくてね。大体どこの医者に行ったらいいか分からない。」「おれは歯医者は3ヶ月に1度見てもらっている。目医者は緑内症が心配で河北病院に行った。1年くらい経ったらまた行く。頭がくらっとして倒れそうになるときもあるが、それも河北にいった。大丈夫だそうだ。」
「大病院というのは先生に紹介してもらうのがいいんだろう。」「河北の場合にはたまたまアルプス旅行のときに女医さんがきていてその人に言われたからだが、別に紹介状を書いてもらったわけじゃない。ただ先生を指定するために最初に3000円余り払わされたけれど・・・・」「おれの場合、そういう伝がない・・・・。」「若い女医さん、スカートの短いお医者さんはどなたですか、って聞いたらいい。」「べらぼうめ!つまみ出される。」
「紹介料くらい、そんな金に困っているわけはないんだろ。大金を動かしているんだろ。」「それはそうだが、細かい話は別でなかなか払う気がしない。」「女みたいだな。女というやつは大根一本が80円か100円かものすごく気にする。八百屋やスーパーを駆け巡る。それでいて家なんか買うときは実におおらかにかってしまう。」話が急展開する。会話とはそういうものだ。「そういえば最近マンションが売れないそうだ。1000万円、2000万円割引するものがある。それと大根を同じレベルで考えられては・・・・。」
私はサウナに入る時間は5分と決めている。サウナとその後入る冷水風呂が好きな俳優が結局心臓麻痺か何かで死んだ、という話を聞いたことがある。だから余り長く入るのは体によくない、と思っている。もう7分、大分茹で上がってきた。
「しかしそれを逆用する手もある。プレゼントなんか安物を何回ものほうがいい。もっともあるとき恋人に「安いものを何回ももらうのと一回だけ高いものをもらうのはどちらがいいと言ったら「両方がいい。」といわれた。」
出ようとすると焼き鳥屋が入ってきた。彼は高円寺で焼き鳥屋をやっており、大層繁盛しているらしい。私より10歳若いことを、いつか教えてもらった。ハワイマラソンに出場することが趣味で、向こうに別荘の会員権まで持っているらしい。彼も素晴らしい肉体の持ち主、彼は、奥さんとは琴瑟相和すという具合でいつも一緒にやってきて、一緒に食事をして帰る。
「やあ」「やあ」と挨拶を交わして私は表に出る。
大根一本とマンションを同じレベルで議論する・・・・この伝はよく見かけるなあ。スポーツクラブのサウナは、浴場サウナと違って案外メンバーが固定されている。スポーツをする時間が大体各人決まっており、しかも規則的にちゃんと来る連中は少ない体。狭い空間の中、顔見知りになると、自然に会話が生まれる。
小さな金、大きな金といえば、定額減税2兆円は大問題だが、IMFに10兆円出すことについては議論が余りされない。「それに較べれば数百万円の補助金を職員の慰安旅行に使ったくらい・・・・」と公言した知事がいた・・・・かどうかは定かでない。
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