718「「菜根譚」の金言」(12月13日(土)晴れ)

「菜根譚」は、明時代末、儒仏道三教修養の士・洪自誠による随筆集。此の頃「清言集」の発行がなかなか盛んであったという。前集222条、後集135条からなる。主として前集は人との交わりをとき、後集は自然と閑居の楽しみを説いた書物である。一つ一つ時間をかけて読んだ。
「人よく菜根を咬みえば、則ち百事なすべし」とあるに基づく。朱子も言う「某(それがし)、今人を観るに、菜根を咬むあたわざるによって、其の本心に違うに至る者多し。戒めざるべけんや」菜根は堅くて筋が多いので、これをよく咬みうるのは、ものの真の味わいある人物であることを意味する。「論語」などより考え方によっては役に立つ。

*「天地は万古あるも、この身は再び得られず、人生は只百年のみ、この日最も過ぎ易し。幸いにその間に生まるる者は、有生の楽しみ(人間として生まれた命の楽しさ)を知らざるべからず、また虚生の憂い(人生をむなしく過ごすという恐れ)を懐かざるべからず。(前107)」
気に入って今年のクリスマスカードにも使った。それにつけたコメント。
「現在シアワセであるけれども、もう67歳、此の幸せにいつかは終わりが来る、ということを知っております。それゆえに生きている間は生を十分に楽しみたい。できるだけ長く元気で頑張りたい、と思っております。元気で長生きするということは、世間のためであり、自分のためであり、迷惑をかけぬから子のためでもあります。」
「虚生の憂い」は難しいが、現在の世の中では肩に力を入れる必要はない。やりたいことは何か、くらいでいいのだと思う。ボランテイアであっても、学習であっても、趣味であってもいい。しかし突き詰めるという探究心みたいなものが必要なのではないか。子供のころ新しいことにぶつかったときに示す「目の輝き」と「それを実行する積極性」を常に持ちたい。

*「都(すべ)て眼前に来るのこと(目前に迫っているもの、衣食住など)は、足ることを知るものには仙境にして、足ることを知らざるものには凡境なり。総て世上に出づるの因は、善く用うる者には生機(生かす働き)にして、善く用いざる者には殺機なり。(後21)」
この意味で、我々の世代はちょうど良い世界なのかもしれない。太平洋戦争の本当の苦しみを知らず、さりとて出発時点の生活環境が低かったから、少々悪くなってもどうということはない。今回のサブプライム問題に続く不景気でも、世間の景気は悪くなるだろうが少々の贅沢をやめるだけのこと、と映る。
「此の不景気も元気に生きてきたおかげで面白い世の中の現象が見られるではないか。ところでこうして失敗をした原因はなんであったか。神は自分にその理由を検討する機会を与えているのではないか。」と積極的に考えたい。・・・・・その結果、彼は犯罪が発覚しないと確信して「振り込め詐欺」を働くことにした?ちょっと待って!

*「人生太だ閑なれば、則ち別念(本性以外の念)窃かに生じ、太だ忙なれば、則ち真性現れず。ゆえに士君子は、身心の憂い(身を労し、思いを焦がして精進しなければならぬという終身の憂い)を抱かざるべからず。また風月の趣に耽らざるべからず。(後118)」
「人生はヒマツブシである。」と言ったのは誰であったか。しかし「小人閑居して不善をなす」の言葉の通り、世の中の犯罪者や問題を起こす人々の多くは普段することがないから、そういうことを考える・・・・正しいヒマツブシの術を知りたい。
定年になって会社に残るべきか否か。あるものは「社会とのつながりを持ち続けていなければいけませんよ。」といい、またあるものは「やりたいことをやればいい。」考え方によるが、何もしない立場に自分をおくと、見えなかったことが随分見えてくることは確かである。
君子という言葉は解釈の難しい言葉である。論語に書かれている君子は「国に仕えて役立つ人間」になることだ、という風なことがどこかに書いてあった。ここで言う君子は判然としない。しかし現代流に解釈すれば「一社会人としてそうありたい大人」程度の意味であろうか。
「身心の憂い」は冒頭金言の「虚生の憂い」と同じと考えてよいだろう。風流の趣は現代流に解釈したい。碁もつりもマージャンもできないよりできたほうがいい。そしてそれらができる人はその分だけ優れていると素直に解釈したい。

他に次のようなものが興味を惹いた。
* 友と交わるには、須らく三分の侠気を帯ぶべし。人と作るには、一点の素心(一点の純粋な心)を存するを要す。(前15)
* 人の小過を責めず、人の陰思(秘密の隠し事)を暴かず、人の旧悪を念わず。三者、以って徳を養うべく、また以って害に遠ざかるべし(前105)
* 公平正論には、手を犯すべからず。一たび犯せば則ち羞を万世に残す。権門私竇(私利私欲をはかる者共の集まるところ)には、脚を着く(足を踏み入れる)べからず。一たび着くれば則ち身を点汚す。(前111)
* 小処(小事)に滲漏(水が漏れしみる。油断することをいう)せず、暗中に欺隠(欺き隠す)せず、末路(落ち目、失意のとき)に怠荒(怠り荒む、投げやりに成る)せず、わずかに是れ個の真正の英雄(立派な男、人物)なり。(前114)
* 群議に因りて、独見を阻むなかれ。己の意に任せて人の言を廃することなかれ。小恵を私して大体を傷ることなかれ。公論を借りて以って私情を快くすることなかれ。(前130)
* 大人は畏れざるべからず。大人を畏るれば、則ち放逸の心なし。小民もまた畏れざるべからず。小民を畏るれば、則ち豪横(威勢を頼んで横暴なこと)の名なし。(前211)
* 花は半開を看、酒は微酔に飲む、此の中に大いに佳趣あり。若しらんまん(満開)もうこう(泥酔)に至らば悪境を越す。盈満を履む者(満ち足りた境遇に居る者)は、宣しくこれを思うべし。(後123)

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