722「クリスマスに酔っ払って」(12月25日(木)晴れ)

ガールフレンドのAさんに突っつかれて私は気がつく。「荻窪よ。私が突っつかなかったら高尾まで行くんじゃなIの」いつの間にか寝過ごしてしまった。あわてて網棚の上のバッグを取ろうとすると、前に立っていた男に「それは私のです。」と言われてしまった。
Aさんと今日は日比谷公園にある松本楼に行った。明治36年に日比谷公園のオープンと同時に開業した店。馴染みの客には、あの孫文もいたそうだ。近頃では胡錦濤国家主席が来日した際、福田首相との夕食会の会場となった。そのときの料理だって20000円余り出せば食べられるそうだ。そこまでは遠く及ばぬが、それなりにクリスマスだからと張り込んだ。3階ボアドブローニュ、ピアノの流れる中、味もサービスもなかなか良く楽しいひと時だった。玄関前のクリスマスツリーがきれいで写真を撮った。ワインを二人で一本飲んだのだけれど、すっかり酔っ払ってしまったのだ。最近どんどん酒が弱くなっていくような気がする。

家に戻ると9時過ぎ、私はすぐに床を敷いて眠りに着いた。
・・・・・そうだ、私は今日は早く来いといわれているのだ。何か内示でもありそうな雰囲気だった。
どうなるのだろうと考えていると、乗換駅の御茶ノ水を乗り過ごしたことに気がついた。サラリーマンは大変だ。
次の駅で降りうるとずいぶん閑散とした駅だ。「御茶ノ水に戻るに線はどこですか。」と青い服を着た駅員に聞く。あちらだよ、といわれた方に向かうと広い野原に単線が一本、ホームが一つ、汽車と列車のあいのこのような車両が一台。「それに乗ればいいんだよ。」まもなく動き出したのだが、分からないところに向かっている。ああ、遅れてしまう、と焦っているうちに目が覚めてしまった。夢であった。夢は不思議なもので非常におかしな体験をしながらすぐに忘れてしまう。枕元に筆記用具がたまたまおいてあったからメモしておく。

時計を見ると12時40分。のどがひどく渇いている。台所で冷たい水を飲む。少し目がさえてきた。トイレにも行き、再び蒲団にもぐりこむ。
変な夢だ、と思いながら、あの松本楼の食事のことを考えた。二人の宴会みたいなものだ、と思いながらふと宴の字はどうしてウ冠の下に日に女なのだろうと考えた。そういえば堰堤の堰も右側の「はこつくり」の中は日に女だと思いついた。最近漢字の勉強をしていると、今まで意識していなかった文字のつくりやへんが共通であることに気がつく。そしてその意味が気になるときがしばしばある。日に女というのはずいぶんのんびりした字だなあ、と思った。すると日に女だけの文字があるのだろうか。またそれに「はこがまえ」をつけただけの文字があるのだろうか。考え出すと、次から次にと連想がわいてくる。そういえば「ひつ」や「かまち」という字も右は「はこがまえ」だった。「ひつ」は箱の中が貴族の貴、「かまち」の中は王だったろうか。だんだん疑問が広がってくる。分からなかったことはすぐに答えを出すこと、子供の教育にも当てはまるように思う。意を決し、私はとうとうまた寝床から起きだし、電子辞書を取り出してきた。幸い考えていた通りだったから安心して再び床にもぐりこむ。

身体が冷えてしまった。ひどく風が強い。私の家の庭にアパートを建てている。私は酔っていても火元は確認したが、住人の中にうっかりする者が居ないだろうか。火事がおこれば、間違いなく私の生活は一変する。どこかしらカタカタと音がし、なんとなく怖い。
いつの間にか眠り込んでしまう。晴れた日だ。私は家の外に出ようと思った。ところが玄関には何もない。「下駄がないじゃないか。」大きな声を上げる。「親父がはいていってしまったよ。」と庭から弟の声。裸足で外に出ると、弟が庭に突っ立っている。
「親父はどこへ行ったんだ。」「世田谷の方の松林らしい。何でもあそこが気にいったらしい。」
弟が草履を履いているのを見て、そういえば我が家には履物が二つしかないと考える。
家の裏に回ると裏門の家の屋根が、ダリの絵みたいにぐにゃりと垂れ下がっている。
「此の屋根はどうしたんだ。」「生乾きだから、自重でそんな風になったのさ。」と弟。そこにスケッチブックを首からつるした親父が下駄を履いて現れた。どうしたんだい、という風。何時戻ってきたのだろう。弟がぬれたシャツを持ってきてぐにゃりとなった屋根に下げた。すると屋根はハンガーのようにしゃんとした。弟はシャツの下を引っ張って水気を切っている。今度はここで目が覚めた。4時40分、大分寝過ごした、と飛び起きる。酔いはとっくにさめ。頭はもうすっきりしている。

二つの夢はフロイド的には一体どうやって解釈したら言いのだろう。私にはまったく分からない。ふと親父がもう死が近くなった頃の言葉を思い出した。其のときには母がなくなって、10年もたっており、親父は一人で生活していた。「よく夢を見る。そして其の中で俺はなぜこんなことをしているのだろう、といつも不思議に思う。」私も年を取ったのかもしれない。

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