732「「水滸伝」を読む」(1月26日(月)晴れ)

駒田信二訳による水滸伝8巻(ちくま文庫)を読み終えた。
水滸伝は、最近では北方謙三、少し古く吉川栄治、岩波文庫版、ほかに漫画本など色々あるが、誰かに読むなら詩文を原文に忠実に訳している駒田本がいいといわれたからだ。
中国明代にまとめられた4大奇書(本書、三国志演義、西遊記、金瓶梅、近年は金瓶梅に変えて紅楼夢をいれる。)の一つ。

960年、趙匡胤が建国した宋朝下では、二毛作が拡大し、芸術、思想なども大いに発展したが、次第に宦官等の官僚が、政治を支配するようになり、北方民族の侵入もあって、国が乱れ始めた。徽宗は1100年に即位し、当初は温厚な政治を営んだが、次第に宦官を重用し、財を自らの芸術のために用いるなど、民衆の恨みをかった。また北方の遼や金の侵入を受け、1127年にはついに首都開封を落とされてしまう。
水滸伝は、史実でないが、歴史書「宋史」には、徽宗の12世紀初めに宋江を初めとする36人が梁山泊の近辺で反乱を起こしたことが記載されている。講談氏たちは、次第にこの物語を膨らませ、13世紀に書かれた説話集「大宋宣和遺事」には、宋江を初め36人の名前と彼らを主人公とする物語が掲載されている。これが15世紀に108人に増やされてまとめられた。
梁山泊は、現在の山東省西部にあり、あたりは黄河によって形成された海抜ゼロメートル以下の内陸低地である。滸は「ほとり」で、全体「水辺のほとりの物語」という意味。古くから黄河の氾濫により無数の水路と沼沢が生まれた。名前は、付近に梁山という名の山があったことに由来する。
元末から明初に施耐庵あるいは羅漢中が、それまで講談として行われてきた北宋徽宗期におこった反乱を題材とする物語を、集大成し創作した。荒唐無稽で暴力的な登場人物は書き改められ、儒教道徳をも兼ね備える作品となったが、知識人には余り評価されず、もっぱら民衆の読む通俗小説として扱われた。

駒田信二のものは120回に別れている。
道教の大本山、江西の竜虎山の伏魔之殿に閉じ込められていた妖魔から解き放たれ、三十六の天?(てんこう)星と七十二の地?(ちさつ)星がこの世に現れ、百八人の好漢となる。北京大名府から都の大臣に送られる金銀財宝をつんだ「生辰綱」を、輸送途中に奪った事件を皮切りに、晁蓋、宋江、柴進、虎殺しの武松等が次々に登場、梁山泊に終結する。やがて晁蓋が戦に倒れ、宋江が指揮するようになる。いづれも各地で何らかの罪を犯し、しかしこの世に義の旗をあげんとする者どもで、終に108人。(71回)
しかし宋江は、朝廷に帰順し、官職を授かって、国家に尽くしたいと望むようになる。所謂招安の工作は、二度まで失敗するが、三度目でついに実現され、天子に拝謁する。しかし帰順を苦々しく思う者も多く、彼らの功績をもみ消し、彼ら辺境に追いやろうとする。(80回)
まず、辺境を荒らしていた契丹人の王朝遼の征伐に出かける。次々に軍を進め、ついに遼の首都燕京を取り囲んだところで、彼らが降伏、和議を結び彼らに北方を守らせることにする。
五台山に登って(90回)休息するまもなく、華北の田虎が謀反を起こし、其の征伐に向かう。最後には太原の城を水攻めで落とし、鎮圧する。(100回)
淮西で、王慶が謀反を起こし、多くの州を占領し、偽の王朝を打ち立てていた。これも倒すが(110回)奸臣たちはまだ敵が退治されたわけではないと、彼らに安穏な期間を与えない。
最後に、江南の盗賊方臘を退治するために出陣する。しかしこれまでと違って難敵で、武将たちは次々に命を落としてゆく。ようやく彼らを倒したとき3分の1になっていた。
この辺、田虎、王慶退治の話がいかにも後から付け加えられた、との印象を受ける。それでも天子からは賞賛され、宋江、盧俊義等は官爵を得るが、奸臣たちは、彼らに牛耳られることを恐れ、ひそかに天子を通じて毒殺をはかる。


実は清代に、金聖嘆が、梁山泊に108人が集まるまで70回でまとめた70回本が流行した。中国ではこちらが主流のようである。西太后は、108人が結局は皇帝に従うというところが気に入ったという。しかし毛沢東は、宋江が前首領の晁蓋を棚上げにして実権を握り、自ら首領となった挙句に朝廷に帰順したことが、革命への裏切りであるとして非難したそうだ。今では読みたいように読まれているとか。日本では、1723年に岡島冠山により一部和訳されてより普及し始めた。滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」や「椿説弓張月」などは、この作品の影響を受けたようだ。
最後に私の個人的な読後感。中国人の考え方が分かるような気がするが、活劇ばかりで、やはり招安をうけて結局は権力の犬となるところに不満、と言ってはいけないだろうか。

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