地図を頼りに、お堀端を明治生命に向かうと、もうカップルは歩道に立ち、カメラに向けてポーズをとっていた。久しぶりに見る姪の結婚式である。
随分背の高い男だ。姪は余り大きくないから大木に蝉が止まったみたいだ。しかしこれ以上ないくらい幸せにみえるから結構。
親類縁者の紹介などあった後、キリスト教式の結婚式。
神父は若い外人。ややアクセントのおかしい日本語とときどき英語で始まる。
花婿だけが祭壇の前に立つ。彼は某国立大学薬学部大学院を出てD社でガン治療薬の研究のようなことを行っているらしい。まじめで優しそうにみえる。姪は31歳、それより3歳年上というから働き盛りだ。
ヴァージンロードを弟のエスコートされて、姪が登場。真っ白な裾の長いウエデイングドレス、着付けぬせいか、随分歩きにくそうだ。弟は、随分緊張した顔をしている。
聖書の一部が読まれたり、神父の説教のようなものがあったり、これから相手を大切にして幸せな家庭を築いてゆく誓いの言葉を述べたりする。そして指輪交換。最後にはお祝いの歌まで飛び出した。カップル退場にはあらかじめ渡されたバラの花びらが出席者から投げかけられる。どうやらプロの結婚式を演出する会社がやっているようだ。
写真撮影が終わって、すぐに披露宴。当世は仲人なんかおかない。
花嫁花婿の紹介はDVDが使われた。出会いの写真、幼少時の写真は左に花婿、右に花嫁のものがうつしだされる。赤ん坊姿、やんちゃ姿、学校時代・・・・・。そしてそれにフリップが重ねられる。「**さん(花婿)は、埼玉県のA高校に進み、何か学生時代有意義なことをということでサイクリング部に入り、全国一周・・・・・」「**(花嫁)さんは、得意の美術を生かして・・・・。水泳部位のマネージャー、そのうち選手にもなり・・・・。」「キャリアウーマンになりたいということでT大学に再入学・・・」など、きれぎれで耳に入るが全部は覚えていない。
去年の3月くらいにスポーツ関係の集まりで知り合って、とんとん拍子で決まったのだそうだ。縁というものはわからない。
「あの写真は大変だった。家中のアルバムをさがした。」とそばで弟。
挨拶は花婿側、花嫁側一人づつ。スカートの丈と挨拶は短い方がいい、ということか。
花嫁側主賓の乾杯で宴会のスタート。和やかな雰囲気の会である。お色直し、というのはなかった。花嫁と花婿が各席を回ってくる。キャンドルサービスをやるわけではないが、各席でみんな一緒になって写真を撮るから結構時間がかかる。しかしそれぞれの席でカップルは十分に楽しんでいるようで結構である。
歓談、スピーチなどがかなりの時間かけて終わり、デザートは隣の会場に移ってバイキング。大きなウエデイングケーキが運ばれ、二人がナイフを入れる。お互いに食べさせっこをするとは、なんとも甘い演出!ケーキはすぐに切り分けられ、皆にもおすそ分け。エンデイングロールと称し、またDVDで出席者の紹介等が行われた。最初のものとあわせて彼らにとって世界に二つとないDVDになるのであろうか。
姪から両親へのメッセージが読み上げられたが、なかなか感動的であった。
「父は私のいうことを何でも聞いてくれた。算数が分からないといえば、会社を休んで教えてくれたり、水泳を教えてくれたり、部屋に棚がほしいといえば設計図を書いて作ってくれた。私はお父さん子だった。母も私のやりたい通りにさせてくれた。その二人が反対したのは私が家を出て一人で生活したい、と言ったときだった。どうしても独立したくて、その資金もためたのだ。家を出る日、父も母ももうこの家に戻ることはない、と知っていたようだ。父は「みんなに内緒だよ。」と2万円くれた。下宿生活をして体調をくずし、臥せったとき、その2万円を見つけひどくありがたかった。暖かい家庭のごはんがどんなにおいしいものか知った。これからは**さんとお父さん、お母さんが作ったような暖かい家庭を作ってゆきたい。」(編集)
私は、あらためて彼女ならいい家庭を作れるに違いない、と感じた。世間の厳しさを知ったがゆえに、家庭の重要さを知っているからだ。
娘の理想像はだんだん変ってきている。かっては家庭のしつけが行き届き、男に尽くすきれいな箱入り娘だった。しかし戦後女性の力が強くなる一方、男も優しさと同時に、確かさを備えた女性を求めるようになった。そういったことは、親も子もうすうすは気づくものの片方だけでは出来ない。親子の双方が認識し、双方が苦労して新しい道を見つけ出してゆかねば成らぬ。そういったことを考えあわせると、彼女は理想に近く、弟が愛したのも十分理解できる。
新婚旅行はフランスとドイツに2週間ほど行くのだそうだ。当然ながら、彼女は仕事を続けるらしい。協力して素晴らしい家庭を作ってもらいたいものだ。久しぶりに幸せな結婚式に出席して、私も若返った気分で、ひどくうれしかった。
註 ご意見をお待ちしています。
e-mail agatha@bekkoame.ne.jp
home-page http://www.bekkoame.ne.jp/~agatha