75歳以上の高齢者は、運転免許更新の際、認知症のおそれがあるかどうか簡単なチェックをするようになった。たとえば今日の日づけ、曜日などを問う。その症状が早くも現れたのか、夕べは土曜日の夜と勘違いして通信を送ってしまった、昼間には、人に金を振り込もうと相手の口座番号を調べて銀行窓口に行き、そこで振り込む金額がわからないことに気がついた。
前口上はこのくらいにして、足利事件で無期懲役が確定して服役していた菅家利和さん(62)が釈放された。今後再審が開始され、無罪が確定する可能性が高いという。会見では笑顔を見せたが、警察と検察、そして裁判所に激しい怒りをぶつけた。「自分の人生を返してもらいたい。」当然のことと思う。
知らない事件であるが、ウエブサイトを自分の勉強をかねて少し調べてみたい。
足利事件は、1990年5月12日、午後7時前、栃木県足利市内のパチンコ店から、当時4歳の女の子が行方不明になり、翌朝近くの渡良瀬川河川敷で遺体となって発見された事件。また当日渡良瀬川の中から被害者の着衣が泥だらけの状態で見つかった。
11月末から、聞き込み捜査により幼稚園バス運転手菅家利和さんがマークされ、以後徹底的な周辺捜査が始まる。翌年8月に菅家さんのゴミ箱から押収されたテイッシュと半袖下着のDNA鑑定を東京の警察庁化学警察研究所(科警研)に依頼した。一致との結果を得て、菅家さんを足利署に連行、取り調べたところ自白した、と言う。93年7月に宇都宮地裁で無期懲役、96年東京高裁で控訴棄却、2000年最高裁上告棄却、異議申し立ても却下されるが、2002年に宇都宮地方裁判所に再審請求した。一方で、弁護側の依頼する鑑定医がDNAが一致しない可能性がある、との結論。2008年に地裁は再審請求を棄却するが、東京高裁は12月についに再鑑定を決定。この間が実に長い!双方が、改めて自治医大に冷凍保存されていた半そで下着を二分割し、菅谷さんの血液と口腔粘液を採取した。2009年5月に双方とも、塩基配列が異なるなどの理由で、「同一人物に由来する可能性は少ない。」との結論に達した。
科警研のDNA鑑定は89年に始まり92年から全国で導入された。精度について、足利事件当時は、「血液型と併せ1000人に1.2人が一致する」(現在は4兆7000億人に1人)としている。最高裁は、2000年「科学的に信頼される方法」と初めて証拠能力を認めたため、事件はDNA鑑定を利用した科学捜査の象徴とされてきた。それが間違っていたわけだ。
ただ、今回の結果で結局は被害者の遺族は置き去りにされたまま、と言う事実も忘れてはならない。しかもこの事件が起こった当時周辺では何件かの幼児の誘拐、暗殺事件が起きている。裁判が長引き、しかも被告が冤罪と言うことで、それらの事件もあわせて未解決のままに放置されるわけだ。遺族は、やりきれない気持ちであろう。
「疑わしきは罰せず」と言う諺は正しい。法をこの精神で執行しなければならないのは当然だ。しかしそこに割り切りもまた必要だ。当時のDNAが絶対と信じられていた状況からは有罪としたのは当然の判断だったかも知れぬ。79年、83年、86年、88年と付近で幼女が殺害、あるいは失踪した未解決事件が相次いでいた。当局が多少焦っていたのも事実であろう。
警察、検察が、事件を反省検証し、今後の捜査のやり方、取調べのあり方の指針にしなければ成らないのは当然である。ネットを調べた範囲でよくわからなかったのは、検察の「ほかにも状況証拠がある。」との言。どのようなことを具体的にさすのだろうか。私には菅谷さんがバスの運転手をしていた、軽度の知能障害であった、子供の頃からつい人の意見に流されやすいタイプであった、程度なのであるが・・・・・。DNA以外にどの点が菅家さんを疑わしいと決め付けるポイントになったのか、は重要な検討課題であろう。
最後に庶民として、この事件をどう考えるべきか。
交通事故みたいなもの、と考える以外ないではないか。交通事故なら17年どころか、命そのものが返ってこない。しかし同じと考えるなら、反省点は、個人の知恵として身にふりかかる事故を防ぐにはどうしたらいいか、ではないか。検察の取調べに自白し、一審の途中まで認めてしまったことが問題ではなかったか。本当でないことを認めてはいけないと、叫んでいるようにも聞こえる。逆に言えばそれだけ弱者、お人よしに住みにくい世の中・・・・。
この事件を「それ、見たことか。」的に捕らえることには反対である。たとえば取り調べの可視化である。取り調べは多少なりとも権力を笠に来て、若干の恐怖心を植え付け、本当を言わなければひどい目にあう、と思わせなければ成らないのだと思う。それゆえにビデオに後から第三者が自由にコメントを入れられれば、捜査がやりにくくなるのは当然だ。その結果、お客様扱いされた被疑者が、真実を隠蔽することは十分考えられる。この問題は別の次元から考えられるべきテーマだ。
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