塩野七生「ローマ人の物語」を読み終えた。最初、この本は大型本だったが、文庫本で出し始めた。全部で15巻だったものが、文庫本にして1巻3冊くらいにしたため、全部で40巻以上になる計算。「これなら読みやすいだろう。」と新潮社は考えたようだ。
私は、文庫本が出版されるようになってから買い始めた。書架に並びだし。文庫本で全巻そろえよう、と言う気になった。ところが新潮社は中々全部を文庫本にしないのである。一巻出すと半年くらいたってまた一巻、と言う具合である。面白い本は、一気に読みたい。これでは熱が冷めてしまうことおびただしい。今回大型本で第13巻「最後の努力」が文庫本になり、すぐに購入して読んだ。しかしもう待ちきれず、図書館で大型本を借りてきて「キリストの勝利」「ローマ世界の終焉」を一気に読んでしまった。
ローマは、人々が自分たちの理想の国家を作ろうとして行なった人類史上最大の実験であったように思う。「自分たちの」というところがミソでほとんどの国は創立者の理想とする国を作り、それを2代目以降にどう守らせたか、という歴史であった。ローマの場合は、奴隷は別としても人々がみなでよい社会を作ろうと試行錯誤した歴史に見える。
15巻の巻末に著者が書くように、この書は三つのパーツに分けられると思う。
第一は1巻から5巻のローマが建国し発展していった時期である。始まりは王制であったが、その後は長く共和制が続いた。もっともすごかったのはハンニバルのカルタゴと戦った「ポエニ戦争」であったろうか。勝利すると「高度成長期」となり、国内システムとしては元老院が十分に機能していた。しかし次第に主導権争いが激しくなり、結局はシーザーがルビコン川を渡って、君主制に近い政治を志向しはじめた。ブルータス等に暗殺された後を受けて、オクタヴィアヌスが、エジプトでの戦いに勝利してローマに凱旋する。彼は共和制回帰を宣言するなどして、元老院の体面を保ちながら、実質的には帝政を敷いてゆく。
第二は6巻から10巻で、ローマがその繁栄を享受した時期である。「パクスロマーナ」とは「ローマによる国際秩序の時代で、ローマ主導による平和がヨーロッパと北アフリカと中近東で二百年にわたって維持されたのだからスゴイ!五賢帝の時代が、ピークであったろうか。
第三は11巻から15巻で、ローマ史と言えば、それしかないと言う感じの衰亡の時代である。この部分について著者の言が面白い。「たった一度の人生を、他人の業績を拾い歩く作業に費やす気持ちにはどうしてもなれなかった。それで、この最後の5巻ではとくに「なぜ」よりも、「どのように」衰亡していったのか、に重点をおいて書くことにしたのである。」そして読者の一人としてこの部分が一番面白く、かつ興味深く感じられた。
元首は、当初は何らかの形で選ばれ、元老院の承認を得た者がなった。しかしこの頃になると、ローマの元老院と市民は無視され、ミリタリーとシビリアンの流動性は失われた。国内は税金大国となり官僚が支配するようになった。一方で国境を守っている軍人が次々に皇帝を選び、選ばれた皇帝は世襲を志向するようになった。デイオクレテイアヌス帝は「市民の中の第一人者」よりも「市民からかけ離れたところで支配する者」になり、帝国を4分して4頭制を敷き蛮族から国民を守ろうとした。その間にキリスト教が徐々に勢力を伸ばしてゆく。勢力争いの結果コンスタンテイヌスが皇帝となったが、彼は己の野望を達成するために、ニケーア宗教会議等を通じてキリスト教と組む一方、コンスタンチノープルに新都を築いた。「統治ないし支配の権利を君主に与える者は「人間」ではなく、「神」である。」・・・・・この論理が彼に都合がよかったのだろうか。その子の時代になり、キリスト教は国教となる。
ユリアヌス帝は一時期、キリスト教優先状態を元に戻そうとするが挫折。それどころか4世紀末テオドシウス帝の頃には、司教アンブロシウスが、「皇帝権に対するキリスト教会の優位」をはっきりさせようとさえした。また蛮族の進出により帝国は終に東と西に分断される。
辺境では蛮族が次々に帝国領内に進出し、それはさらにフン族の出現により加速される。蛮族は、帝国内に居住がいったん許されると、約束をたがえてそこを起点に掠奪を始める有様。皇帝にも蛮族出身のものが立つようになり、二度にわたるマローマ劫掠をへて西ローマ帝国は滅んでゆく。その後オドアケル、テオドリックによる「パクス・バルバリカ」(蛮族による平和)時代が来るが、もうどうしようもなくなっていた。
最後に、この衰退期をどうしても現在の日本に重ねたくなる。真の民主制度は、大衆には都合がいいが、支配者には都合の悪いもの、国家と宗教の分離の大切さなど痛感する。一方で国を守ると言う一大事を他人任せにした結果、ローマは滅びた、と言うこともできる。現代の日本をじっくり考え直すためにも一度読むことをお勧めする。
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追記 ホームページ「私の読んだ関連する読み物」欄に「ローマ人の物語」15巻の要約が掲載されています。