812「吉田徹「二大政党制批判論」 光文社新書」(11月11日(水)雨)

民主党政権が誕生して2ヶ月、変化が大きくはらはらしながら見ている。「これで日本の将来は問題ないのだろうか。」
新政府はマニフェストでやると約束したことが多く、そのためには予算が足りぬ。税収も落ち込み、国債の発行額が史上最高の44兆円を越える、との話も聞いた。ところがこの前ある経済学者の議論をネットで見つけびっくりした。「国の借金はほとんど国債だ。その国債を大体日本国民が引き受けている。利払いが過大になりすぎるなら国債所有者に国債と見合った額の税金をかければいい。」経済は滅茶苦茶になるだろうがもとよりそれは覚悟の上、と割り切られれば口をつぐまざるを得ない。・・・・政権を得たが故の国家権力の濫用を恐れる。
そんなことを気にしているうちに実は今回の衆議院選挙で民主党のとった得票は47%、しかし獲得した議席は72%、と知った。小選挙区制のおかげである。それなら小選挙区制度は民意を正しく反映するのか、そもそも二大政党という政界のあり方は正しいのか、政権をとった政党はなにをやっても許されるのか。そのときに書店で見つけたのがこの本、若手経済学者のものだがなかなか参考になった。

第1章では歴史的になぜ「政党」という存在が必要とされることになったのか。国家の中で政党政治がどのような意味を持つのかを論じている。
政党は、憲法に定められているわけではないが、民主政治の中核に位置する。その目標としているところは@政策の実現、A得票率の極大化、B議会・政治制度内での影響力の拡大である。このサイクルを維持するために有権者の支持が必要になる。そのために政党が織り成すゲームをどのように決めたらいいのかが、大きな争点となる。この「ルール・オブ・ゲーム」の「仕切りなおし」を行なったのが、90年代初頭の日本の政治改革論議であった。

第2章では90年代の政治改革の流れの中でなぜ二大政党論が浮上したかを論じている。
今から考えれば、必ずしも同意しがたいが、中選挙区だから金がかかり、政権交代が起こりにくいという議論が、小選挙区制どの導入を後押しした。しかし小政党に不利であったから、比例代表制が併用されることになり、あわせて公的助成金が導入されるようになった。ただ政治改革論議が期待した「政策本位」「政党本位」が展開されなかったので、「マニフェスト」というマジックワードが導入され始めた。小泉構造改革はこれを加速させたが、一方で小選挙区制の持つ、@得票率と議席数が乖離し民意が反映されない。A区割りにおいて恣意性が介在するB死票が多く投票へのインセンテイブが低下するなどの欠点が指摘された。

第3章では二大政党制は多くのデモクラシーの中にあるいくつかのパターンのうちの一つに過ぎないことを論証し、新自由主義と親和的である側面が指摘されている。
小選挙区制に比重が置かれた背景には「政権交代のある二大政党制」が期待された側面がある。「デユヴェルジェの学説」通りに、小選挙区制で二大政党制が進展したが、一方でアンソニー・タウンズの指摘する欠点も見のがせぬ。二大政党制では「イデオロギーや政策は多数票を求めて収斂傾向にある」「社会の両端に位置している有権者は見捨てられる傾向にある」という。
このような状況の中で、日本の政治は「何を実現するか」よりも「政権をとるかどうか」にうつり、劇場政治によって人気を得ようとする傾向がでてきた。このような状況で、社会に見捨てられた層を糾合する形で極右・ポピュリズム政党の伸びも危惧される。実は二大政党制は必ずしも日本国民の支持を得ているわけではない。逆に連立政権は必ずしも不安定というわけではなく、敗者を作り出さぬもう一つのデモクラシーとも考えられる。

第4章では政党政治が歴史的な生成過程から形成されたものであるとし、今日までの政治改革論議が現実から乖離したものである、とする。歴史的に西欧と違って日本の場合、本格的な保守政党と自由政党の対立は起こらず、寧ろその時々の政治状況に合わせて選挙制度や政治制度を改変して時の権力を寧ろ強化する方向に働いた。制度的な完成を見ても、内実は脆弱なものだった、といわざるを得ない。日本のオルターナテイブな制度にて著者はコーポラテイズムシステム、直接民主制、熟議デモクラシーを揚げるが、その全体像はいまひとつ見えにくい。
最終章ではオルターナテイブとして、中選挙区と多党制への回帰があるのか、それとも新しいモデルがあるのか、を論じている。最後に「日本の作法」によるデモクラシーを主張している。

ふと思う。数年後自民党が政権を再びとる事はないだろうか。
そのとき自民党はどうするだろうか。八ツ場ダム工事を再開するだろうか、国会の役人答弁を復活させるだろうか。民意であるから分からぬが、可能性がないわけではない。現状に少しでも疑問を持つ人には一読をお勧めする。

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