天気予報は、「寒いが一日曇り」のはずであった。そのため傘を持参しない人もいた。しかし歩き始めるとすぐにぽつりぽつりと降りだし、結構降るようになった。
出身会社OB杉並支部による「秋の歩こう会」。年2回開かれているらしいが、出席するのは初めて。少ないと思ったが25人くらいの参加。私は68歳だが、平均年齢に行くかどうか。古刹を診て回るもので、東急線不動駅前に10時集合。全行程5キロ弱とのこと。
幹事が、通常の案内に加え、昔の江戸名所図会をコピーして来てくれた。江戸時代のこの辺は、のどかな農村、考えてみれば落語「目黒の秋刀魚」の舞台になったくらいだから当然。将軍家の鷹狩りの場所で、御膳所と成ることも多かったそうだ。
さて見物、まずはたこ薬師。名所図会によれば「・・・・天台宗成就院境内に安んず。本尊薬師如来は慈覚大師(円仁、793-864)の作なり。世俗伝へいう。この本尊に祈願あるものは、蛸を断ちてこれを念ずるに、果たして利益ありとて、絵馬にも蛸の形を描きて捧ぐ。」正面看板に蛸の絵とともに「ありがたや福を吸い寄せる蛸薬師」とある。
その横に安養院。寝釈迦と石仏の寺とし、美術館があるようだが閉まっている。ガラスケースの中に五百羅漢のような金属製の置物がずらりと置かれているが、何かの由緒があるのかも知れぬ。墓地の中を歩きながら幹事のAさんが「お寺によっても違うが最近は10年で無縁墓地として処分してしまうお寺が多い。」というようなことを言われていた。
次は早くも目黒不動。正式には滝泉寺と号し、天台宗のお寺である。ここも開基は、慈覚大師とか。大師は、比叡山延暦寺で最澄に師事し、838年に唐にわたった。その体験記「入唐求法巡礼行記」を読んだことがある。帰国して後、全国を旅し、多くの寺を開いた。
慈覚大師が独鈷で地面を掘ったところ、湧き出したという霊水「独鈷の滝」というのが正面にある。ポンプを使って水を循環しているのではないか、とは罰当たりな私の邪推。少し長い石段を登ると本堂。奥の方に本尊不動明王らしきものが祀られている。脇侍ふたつはセイタカ、コンガラ童子と思うが名所図会には「八大童子」とあるのみ。みなお賽銭を入れて手を合わせる。中には「競馬が当たりますように」「株が上がりますように」等々現実的な御仁も・・・・。寺の裏手に回ると木立の中にすっくと大日如来坐像。金属製のようだ。由緒等は書いていないけれどもなかなか気品のあるお顔に見えた。少し離れた場所に、青木昆陽の墓。江戸時代の儒学者にして蘭学者だが、関東にサツマイモを普及したことで知られ、「甘藷先生」の名で親しまれている。
すぐ先に五百羅漢寺。五百羅漢寺は、本来江戸本所に建立された由緒ある寺。五代将軍綱吉、八代将軍吉宗の援助を受けて発展した。五百羅漢は松雲元慶という禅師が十数年の年月をかけて彫像したもの。江戸時代を代表する木彫で東京都重要文化財に指定されている。明治41年に目黒に移って、しばらくは放置されていたが、昭和56年に近代的なお堂が建てられ、安置された。等身大でずらりと並ぶ坊主頭は迫力があるが、作者の考えに基づくのか、みなやけにまじめな顔をしているのが少し不満に感じた。
もっとも仏法を護持することを誓った16人の弟子を十六羅漢、第1回の仏典編集に集まった500人の弟子を五百羅漢と称して尊敬した、という話だから、まじめくさっているのが本筋なのかも知れぬ。羅漢さんがどうであろうと、現代人は、懸命に収入の道を図らなければならない点では同じ。併設して寺の経営するらしい羅漢堂なるレストラン。ここでの会席弁当の昼食。中々のお味でした。
隣が海福寺。黄檗宗の禅寺。さらに蟠竜寺。本道の裏に弁財天を祭る小さな洞窟があって、江戸時代は窟弁天の名で親しまれ、山手七福神のひとつとして信仰されたという。しかし石の彫り物は、弁天様と識別するのに苦労するほど、風化されて当て外れ。
そして大鳥神社。もともとは弟橘姫を祭る都内でも有数の歴史を持つ神社。11月のお酉さまが有名。今年は一の酉が12日、二の酉が24日、二の酉に備えてか沿道の熊手を売るらしい店店はほろをかぶせてしっかりガードしている。雨は全然やまず、ちょっとさえない。
最後に目黒川に渡る太鼓橋を渡る。橋自体は近代的なものに置き換えられ、風情はないが、両岸の桜は見事でお花見シーズンは素晴らしいに違いない。行人坂を登ると目黒雅叙園のむこうに天台宗大円寺。1772年に盗人による放火により、江戸は大火事となった (行人坂火事)。火勢は風にあおられ、目黒から麻布、麹町、霞ヶ関、日本橋、神田、浅草と江戸の3分の2を焼けつくした。そのため幕末までこの寺は再建を許されなかった。境内に入ると左手斜面に夥しい石仏、これが大円寺五百羅漢。こちらは素朴なつくりだが、乳飲み子を抱くなど、羅漢様に表情があり、私は親しみを感じた。本尊は清涼寺式という釈迦如来像。
坂を上れば目黒駅。雨に祟られたが、皆さん元気、結構でした。都心にしては中々のコース、また晴れた日にピクニック気分で訪れたい、と感じた。
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