851「日記於辛戌卯月朔日(かのといぬうづきさくじつのにっき)」(3月27日(土) 晴れ)

49日ということで墓参り、故人が仏教徒ではないから、葬式は無宗教でやってくれ、と言っていたので、お坊さんは呼ばず、お祈りだけしてきた。
法事の目的は、死んだもののことより、親交ということで、早速、車であるホテルの中の和風レストランの座敷に集合。20人ばかり。30を越えた神無月も3歳の娘と一緒に出席。
母親たちの会話
「戒名をつけないというのも妙なものね。」
「灰にしてばら撒いてもいい、と故人は言っていたけれど、そうは行かないわね。」
「あのじいちゃんの一生は何だったのかしら。」
「「憎まれっ子、世に憚る。」けっこう、丈夫だったわね」
「60になる前にお母さんになくなられちゃった。その後は勝手なことをしていたわ。ガールフレンドがいて、大分助けられたみたいだったけど。」
「そのガールフレンドも2年前に亡くなって、急にボケてしまったみたい。」
「男はやっぱり女性がついていなけりゃだめなのね。」
「お姉さんは随分おじいちゃんのことを非難してたじゃない。」
「だって私の気持ちとしては仕方なかったのよ。」

そこに神無月が口を突っ込む。
「昨日、おじいちゃんの日記を拾い読みしたのよ。そしたら、オジイチャン、これから40年も先のことを書いているの。老人をロボットの娘が介護し、中国が北朝鮮を併合し、お月様にデイズニーランドがオープンするんですって。地球温暖化が逆転して地球冷却化が始まり、オホーツク海は氷の海になっている、随分いい加減ね。」
「それ、いつごろの日記?」
「ずっと前、20年くらい前よ。おじいちゃんの残したCDなんていう記憶媒体ももうすぐ読み取れなくなるでしょう。それで私のソニーのピンクレイデイスクに書き換えていたのよ。」
「なんなの、そのピンクレイデイスクというのは?」
「知らないの、ブルーレイデイスクの100倍も記憶容量のあるデイスクよ。」

お父さんたちがその会話を盗み聞きして話の輪を広げる。母親たち二人は姉妹、その亭主はもちろん縁もゆかりもなかったが、どういうわけか同じ銀行に勤めて、気があった。
「この20年、随分変りましたね。あの日記、これですよ。」
「なるほど・・・・・・」
「しかし中国の北朝鮮併合なんてもう起こってしまったじゃないですか。老人をロボットが介護、というのも、もう今ではほとんど常識ですね。おかげで雇用機会が減り、失業者があふれる時代になりましたけどね。」
「あの小鳩政権以来、日本の製造業はどんどん世界に出て行くようになった。その分を農業や環境産業、あるいは福祉産業に振り向けようとしたけれど、ロボット化が進みましたからね。」
「韓国製や中国製のね。」
「その余波をうけて、われわれの銀行も商売がやりにくくなった。とにかくも定年まで勤められてよかったけれど、これからの人はモット大変ですね。」
「地球温暖化問題なんていうのも色々騒ぎましたね。」
「ヨーロッパのアルプスの氷河はなくなってしまったんですって?」
「二酸化炭素が増えたから温暖化が進んだのじゃなくて、太陽の黒点の影響だったとか。」
「最近は少し落ち着いてきたようですね。これから逆に冷えるのだろうか。」
「わかりませんなあ。」

「そういえばあの日記で最後に江ノ島に行くところがあるでしょう。親父は環境に優しいエネルギーを確保するために、海は太陽発電パネルで覆われていた、と書いてもよかった、と言っていましたよ。日本は結局海をパネルで埋めるのは漁業関係者の反対など多くて、原子力発電に傾斜していったのだけれど・・・・・。」
「あれ、安全性や廃棄物処理の問題は解決していないんでしょう。」
「背に腹は変えられないから見切り発車ですよ。何も起こらなければいいけれど・・・・。」
「おや、何かごーっと言う音が聞こえませんか。」
「地震だ!」「キャーッ!」ガチャン、ガチャン「机の下に隠れて・・・」ぐらっ!ぐらっ!
・・・・・・「臨時ニュースです。先ほど茨城県沖を震源とする巨大地震が発生しました。各地の原子力発電所が操業を停止した模様です。」

追記:女性たちの会話の続き:
「おじいちゃんはなぜあの新薬カバツガシを使わなかったのかしら。値段は高いけれど、オジイチャンくらいなら買えなくはなかったのに。」
読者のために解説  ベニクラゲは老衰で死なないことが知られている。カバツガシは、このDNAと人のDNAを組み合わせて開発されたもので、寿命を延ばす新薬。東都大学中山教授が、開発し、昨年ようやく製品化され、武共製薬からテスト販売されている。服用すれば20年は寿命が延び、同時に性的能力が回復するとされている。
(http://www2u.biglobe.ne.jp/~moozoo41/)
「おじいちゃんはもうここ数年目が悪くて新聞やTVの内容がよくつかめなかったのよ。」
「教えてあげればよかったのに・・・・」
「どうして・・・・」
「どうしてって長生きしてもらえたじゃないか。」
「でもあんまり長生きされたら、私たちが困らないかしら?介護が大変!それにうちも生活が苦しいのよ。人間は死ぬべきときに死ぬのが一番いいわ。」
天国にいる私のわめき:
「くそーっ、あいつら!」
私の隣にいる生前の私の妻:
「自分だけ、薬の力を利用して長生きし、別の女性をおいかけるなんてずるいわよ。こっちへいらっしゃい。可愛がってあげるから・・・・・・。」
ガチョーン!

追記2:日記於辛戌卯月朔日(かのといぬうづきさくじつのにっき)
知ったかぶりでごめんなさい。2030年4月1日の日記という意味です。

註 ご意見をお待ちしています。
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