853「「衆愚の時代」・・・新潮社」(3月28日(日) 晴れ)

書店に入るとき、最初から特定の本を買う目的で入ることは少ない。並んでいる本を手に取り、ぱらぱらとめくって決める。目をつけるのはタイトル、帯の言葉、前書き、各章のタイトルあたりか。この本はまずタイトルが気に入った。
「衆愚の時代」・・・・最近、特に、非常識な意見や自己の利益のみしか考えていないような意見がまかり通り、逆に正鵠を射ていると思われる意見がまったく無視されていると感じる時が多い。結果として日本丸はどこに行くのだろうと心配する。

ウイキペデイに寄れば
「衆愚政治とは、多数の愚民による政治の意で、民主政を揶揄して用いられる言葉。有権者の大半が知的訓練を受けずに参政権を得ている状況で、その愚かさゆえに互いに譲り合い(互譲)や合意形成ができず、政策が停滞してしまったり、愚かな合意が得られたりする状況をさす。また有権者がおのおののエゴイズムを追求して意思決定する政治状況を指す。」
オビに「「国民のみなさま」が国を滅ぼす。」、「「弱者の視点」より「社会人の常識を」を取り戻せ」・・・・こんなことを大上段に書けば「おまえもその衆愚の一人」と揶揄されるのが落ち、しかし同じように感じている「衆愚の士」は多いのではないか。その意味でこのタイトルに拍手したいのだ。
楡周平という著者は、「Cの福音」という推理小説で知っていた。慶応大学大学院卒で米国系企業の日本法人で働いていたことがあるらしい。

一衆愚の士として「良くぞ言ってくれた」とまずエールを贈りたい部分を書き出す。
一番最後の章「「弱者の視点」が国をだめにする」
日本は未来のために子供を作りやすい環境を作らねばならぬ、そのために子供手当てが必要だ、何とか薬害で苦しんだ人たちに補償しなければならない、こんな主義主張がマスコミを支配している。大体はみな正しい、やったほうがいいことばかりなのだろう。しかし少しでも税金を払っている立場からすれば、実施のための費用は、税金というシステムを通じて私たちが払う、一体その理由はどこに求めるべきか、と問いかけたくなる。しかも要求者たちはそれが当然の権利であるかのごとく言う。少なくとも「払っていただけませんか。」というくらい謙虚になってもらえないものだろうか。
金を稼ぐ人たちは重要である。しかしこの国では金を稼ぐことを少しも奨励していないし、応援もしていないようにみえる。週刊誌によると「鳩山首相は、外遊に熱心だが、一度も経済人を同行させたことが無い」とか。この章のポイントは
1、 民間にたかる天下り官僚たちと、余りにも幼い民主党議員たちの問題点指摘
2、 著者は、弱者は常に正しいのか、と疑問を投げかけている。
3、 弱者に同調する層に社会的に絶対的に優位でいる人をあげる。鳩山首相がその典型、国民の目線で政治を行なうというが、上からの目線のみ感じる。

次に目に付いたのが第1章「派遣切は正しいか。」という視点。
この問題が起こったとき、一部の急激にすぎたやり方は別として、契約どおり企業は退社をお願いして何がいけないのか、と思った。また製造業への派遣が一部を除いて禁止になるなど厳しい措置が打ち出されたが、企業は採用に萎縮し、外国に拠点を求める企業などが増加し、日本には失業者があふれるのではないか、と心配する。この章のポイントは
1、アメリカの不況はクリントン、ブッシュ政権時代に国家の産業基盤を金融業、IT産業に置き、製造業をないがしろにしたため、貧富の差が拡大し、雇用は減少した。
2、製造業は莫大な初期投資を必要とする一方、価格競争に巻き込まれることが多い。消費者の無理な要求も大きい。勝ち残ろうとすればそれらに対応していかなければならない。国外に拠点を移したり、あるいは雇用人員を変動させざるを得ない。
3、派遣を認めないとは、裏を返せば仕事はないのに雇い続けろ、ということ。零細企業と大企業を一緒にするな、の議論もあるが、この問題は大小なく同時に起こる。
4、皮肉な言い方だが、「派遣を求めたのは消費者」とも言える。派遣がいやというなら、消費者は量販店などで買わず、定価に従って町の小売店でものを買え!

3番目が第2章の「欲望を知らない子供たち」、第3章「夢という名の逃げ道」あたりか。著者の議論が飛んでいるところが気になるが、要は「豊かな時代」になり、甘やかされすぎたせいか若者たちがひ弱に見える。その風潮を作り出したのはマスコミであり、世の識者と呼ばれる人たち。社会に格差があるのは当然だ。それを乗り越えられる強い人間を作れ、甘やかしてはいけない、と主張しているようだ。

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