859「50cm、5m、屋根勾配は1:0.6、土盛りは許されるか」(4月20日(火)晴れ)

友人の家の南側には、日本たばこの社宅が3棟建っていた。南傾の広い敷地に東西に長い3階立ての建物、いかにも古ぼけていた。一番北には、大きな桜が植わっていた。そこを渡ってやってくる風は気持ちよかった。
3年くらい前に、随分社宅の人間が少なくなっていることに気がついた。やがて近隣住民を集めて社宅を取り壊す説明会が行なわれた。跡地に何が建つかは分からないとのことだった。

最近南東の一画にマッチ箱のような住宅が建て始められた。東道路に面して1件建てるとその南北に車を入れられるように2m幅の道路をつけ、奥に2件建てる。3件のユニットが広い道路に沿って南北に4ユニット、全部で12件建てられた。奥の家など、太陽光は南に面した玄関とロフト部分から入る程度・・・・。価格は5000万円弱。「あんなところを買うものがいるのだろうか。」疑問に思ったが、若夫婦などの客が次々に見に来る。今ではほとんど売れてしまったらしい。
跡地は東西の二つの開発区域に分けられ、友人の家は丁度その境目北にある。西側も開発が進み、南西に白い家が建てられ始めたが、こちらは少し広く大きいように思われた。
両区域とも、北側を整地し、いよいよ友人の家の前にも家を建てる準備を始めた。家の軒先と隣地の境は、1m程度しかない。第一種住居専用地域、北側斜線の許す高さ5m、屋根の勾配1:0.6、こんな家が目の前に建てられては、こちらは一日真っ暗になってしまう、と危機感を募らせた。私は多少経験があるため相談を受けた。

別の友人のA君に聞いてみた。「小さなところでは建築基準法に違反しているな。埒が明かなければ、景観権を侵害された、そちらが建てたことによって、こちらの土地の価値が下がった、差額分を補償しろ、などという手もないことはない。向こうを呼び出して交渉したほうがいい。区役所に文句を言った方がいい。」さすがに不動産関係の仕事をしていたことはある。景観権や差額分の補償は無理だろうが、動いてみよう。

連絡すると、東側地区から、1級建築士という若い男がやってきた。
「西側は開発地区でございますから90平米以上、私どもの区域はごく普通の家を建てる行為でございまして70平米以上、と決められております。」
「あの土地は実は大手のT建設が開発用に買ったのですが、採算がとれそうにないということで、切って転売したのです。東側をH社が買い、X社の私どもが家を建てるのでございます。役所の方は、もうすべて許可が下りてます。」
図面を見せろ、といったところ、H社と相談してもう一度来るということになった。
西側の業者を調べると、練馬のS建設という会社がやってきた。こちらは一番北側の土地を一部勝手に土盛りしている。ここをつくと「最初から地面が上がっていた。」と主張した。「普段から見ていたが、そんなことはなかった。」などと反論すると「道路に排水を流すために必要」などといい始めた。土盛りをした分だけ、家を高く建てられる、見晴らしはいいだろうが、後ろの家はたまったものではない、大体土盛りはどこまで許されるか、など言い立てると物別れになった。

杉並区役所に行く。図面をすべて見せてくれる。どちらの業者も北側斜線、隣地との境界等許可関係は万全である。私有地で土盛りをしていけない、という規則は無い。問題が起これば後は当事者同士の話し合ってほしい。それなら2mで3mでも土盛りしていいのかと食い下がると、境の処理等とあわせて「近隣と問題を起こさぬように業者を呼ぶ。」ということであった。どこまで効果があることやら・・・・・。
今日は東側のH社、X社などが5人もやってきた。こちらもだんだん慣れてきたから、目隠しやブロックを一部取り払ってフェンスに変えさせるなど承知させた。最後には纏まったところを文書にし、サインさせた。西側のS建設のほうはまだ何も言ってこない。友人は「暗くなるなあ。」と嘆くが、基本的にはやむを得ぬ、ということか。

今年の大卒の初任給は20万余り、去年と変らぬとTV。年収500万円前後をターゲットにした低価格住宅が今売れている、と新聞報道。500万で給料の伸びを余り期待できなければ、せいぜい5000万円の住宅が一杯か。また噂では「建売業者はまず売れる価格を決める。それからそれに会うように土地を細分化し、家を設計する。」
われわれの要求に応え、周りに家がびっしり建つことを考えれば、家には光が入らぬだろう、風も通るまい、建替は出来ぬだろう、樋にゴミがたまっても急勾配の屋根の先、はしごがかけられぬから業者に頼まねばならぬ、など色々考える。住みにくい世の中になったものである。法には採光がとれるようにしなければならない規則があり、杉並区は緑化を進めるというがこんな状況ではとても・・・・・。

〔追記*4月20日〕TVでアパート住まいの若夫婦〔子供が一人〕が家を建てる経過を話していた。予算4000万円。中野に18坪の車庫みたいな細長い土地を2600万円余りで買う。残りの1300万円余りが家の代金。三方をあの5mの隣家の壁が囲む。建蔽率60%、容積率200%。設計家が示した案は10坪の総二階、ロフト付の家。家に光がほしい。設計家は南東隣家の境に広めの窓を取り、家全体の壁を白くし、採光が行き渡るように工夫している。去年の暮れに完成。実にきれいでモダンな家だが、直に子供は大きくなる、収納物が入るだろうか、このだんなは書物は興味がないのか、余計なことが心配になってくる。若夫婦は共稼ぎ、家は寝るために帰ってくるところとだけ考えているのかもしれない。
(追記 2)これも人から聞いた話。「それでもマンションは損だ。自分の家を建てるべきだ。マンションは買ったときから減価が始まり、価格が上がることは絶対にない。特に15年以上たった物件は購入者が公的ローンを借りられなくなるらしく、一段と値段が下がる。」

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