「おじいちゃん、また葬式おばさんから電話ですよ。」
家の者からよくこんな風に声をかけられるおじいさんがいる、と友人のA君。彼の友人の父の話らしい。葬式おばさんというのはおじいさんの学校時代の友人であろうか。しかしこんなおじいさんもわれわれと無縁ではない年になってきた。
「同期の者の名簿に物故と書くのは脳がない。あれは墓地とその墓石の番号を入れたほうがいい。そうすれば友人でも何かの折に訪れることが出来る。」
「同期会などある時点でうちあげにしてしまえばいい。そして合同生前葬を開けばいい。それ以降は個人的なつきあいだけでいい。」
われわれも来年は古希、せいぜい元気なうちに楽しいことをしたいものである。
去年の6月、A君と男二人で長瀞に鮎を食いに行った。(772「男二人、長瀞に鮎料理を楽しむ」)あれから二人の状況がそれほど変わった、というわけではない、今年も行こうとなった。去年行けなかった秩父館を予約した。今年は少しは色気があったほうがいい、と同期のBさんを誘った。彼女は長年JTBに勤めており、ツアーの計画なども立てていたらしいから鮎についてもよく知っているようだ。
秩父館の話では「鮎は6月10日に解禁に成る。その頃はどっと客がおしよせるが、本当は7月になってからの方がいい。解禁したては鮎が小さいが、この頃にはカタもよくなる。しかし時期が過ぎると鮎は取れなくなり、冷凍ものになってしまう。」
長瀞の駅を降りてメインストリートを下ってゆく。去年同様余り繁盛しているとは言えず、大抵閉まっている。川沿いの昔ながらの鮎専門の店、丹一という名前をつけている。雨模様の天気だが、大降りになる様子はなく幸い。店の中に席が用意されていたが、客は我々のみ、風通しのよい外に変えてもらった。藤棚?の下。生垣で囲まれ外の喧騒が遮断されている。強そうな犬二匹「ドーベルマンですよ。」と店の人。アンナ怖い犬、と思うがBさんが上手にてなづけていた。店の中、梁の上には燕の巣、子燕が五羽、口を精一杯広げており、親燕が天窓から時々入ってくる。
早速鮎からあげ2匹、鮎刺身、うるか〔山菜〕、山芋などの膳が運ばれてきた。体によくないと、麦茶を注文していたA君が「オレもやめた。生ビール!」と叫び、3人でめでたく乾杯。Bさんの大きな緑色の玉のネックレスがよく服装とマッチしている。女性が一人入ると雰囲気が去年とは大分違い、お上品?な会話に成る。
うるかは、一夜ぼしを作るときにでた鮎のはらわたに、塩をまぶして発酵させたものである。酒党には最高の肴といわれ、これを楽しめるのは鮎師の特権とか。ぜんまいの様なものとあえて出てきた。
鮎の刺身は、かって関西で食べたときには縦にきってあった。あちらでは「背ごし」というのだそうだ。こちらはいわしの刺身よろしく三枚に切り分けたもの。食べ方は同じ。
ビールとともに食が進むうち、メインの塩焼きが運ばれてきた。鮎の骨抜き、というのがある。鮎を箸で縦横押さえつけて、骨と身をはずす、尻尾をとって、頭から引き抜くと骨が綺麗に引き抜けるのだそうだ。ただしこれは天然の鮎のみ可能、川の流れにもまれていたからできるのであって、養殖ものではできぬ、という。去年の長生館はうまかったが、「骨抜きができるか。」と仲居に聞いたところ、「骨抜き」自体を知らなかった。さて、今年はどうだろう、と恐る恐る試してみると、一匹目は失敗したが2匹目で成功。どうやら天然ものと言うのは本当らしい、と大満足。
田楽がでたあと、最後におおきな土鍋で鮎飯がでてきた。飯の上におおきめの鮎が3匹、蒸しあがっている。それを飯と一緒に混ぜながら食う。風味が素晴らしい。全部で鮎が一人当たり8匹くらい、おなか一杯になってしまった。
帰りごろになって店の入口当たりが騒がしくなった。10人くらいの団体客が、店頭に並べられている甘露煮か何かをみているらしい。込むときは込むようだから事前に予約を入れておくほうがいいのだろう。鮎が天然物のようで、A君もBさんも大変気に入っていたようでよかった。長瀞といえば他に川下り、それに宝登山、あそこは蝋梅がきれいだ。そして最近は桜。彼女はそれらと鮎を組み合わせたバス旅行を考えているようだった。
帰りにす饅頭というのを買った。饅頭の皮に発酵させたこうじを入れることにより皮がふかふかになる。あまり日持ちしないそうだが、この辺の名物とか。これに限らず、まだまだ長瀞はいわゆる田舎のよさが残っていると感じさせる町、畑で取れたもの、それを少し加工したものなど安く売っており、なかなか楽しい。みなさんものんびりといかがですか。
註 ご意見をお待ちしています。
e-mail agatha@bekkoame.ne.jp
home-page http://www.bekkoame.ne.jp/~agatha