885「蝉の声は岩にしみるか」(8月3-5日晴れ)

夏の旅行に、仙台とその奥座敷といわれる作並温泉に行った。作並温泉の近くの適当な観光地を探しているうちに山寺が見つかった。初日山寺、二日目仙台、三日目松島あたりでと胸算用。

山寺・・・・・岩の上にチョコンとお堂の載った写真をよく見かける。
慈覚大師円仁の開基になるといわれるお寺。寺伝では清和天皇の御世で860年。古いお寺。もともと、円仁が天台宗の法華一定の教え〔天台宗〕を広めるために建てたお寺。一時禅宗になったこともあったが元に戻った。
そして1889年芭蕉が登った道。
「山形領に立石寺と云山寺あり。慈覚大師の開基にして、殊清閑の地也。一見すべきよし、人々のすゝむるに依て、尾花沢よりとつて返し、其間七里ばかり也。日いまだ暮ず。梺の坊に宿かり置て、山上の堂にのぼる。岩に巌を重て山とし、松栢年旧土石老て苔滑に、岩上の院々扉を閉て物の音きこえず。岸をめぐり岩を這て仏閣を拝し、佳景寂寞として心すみ行のみおぼゆ。     静かさや岩にしみいる蝉の声」
前から一度機会があれば登ってみたいと思っていたが、少し心配した。1000余段の階段、登れるだろうか。私はいいとして、同行するガールフレンドのAさんは・・・・・。しかし書道教室で知り合いの老人が「最後に登ったのは80をこえてから・・・・。」それを聞いて何とかなる、と考えた。

山寺・・・・遠いようだけれども便利な時代。東京を8時48分の新幹線で出ると2時間かからずに仙台。山寺には11時40分についてしまう。仙台駅では十分ゆとりがあり、名物牛タン弁当を買って、仙山線車内で食った。
根本中堂を越えて少し行くと登山口。入山料を払って登り始める。杉木立を渡ってくる風は気持ちいい。蝉がうるさい。しかしこんな状況だからこそ芭蕉の句の情景描写のすばらしさに気がつく。句碑は根本中堂脇の石垣の上に立っていたが、途中の蝉塚にも立っている。
暑い中でも上り下りする人は多い。1015段あるとガイドブックにあったから、数えながら登った。一段登るごとに、欲望と穢れが清められてゆくという。それほど急な階段ではないし、整備されているからきつくはない。ところどころに塔頭。途中から杉木立がなくなり直射日光をもろに受ける。汗が噴き出る。
弥陀堂は、切り立った凝灰岩の肌が美しい。全体岩が風化でくりぬかれており、ここにお釈迦様の像が見えるというのだが・・・・。仁王門辺りで600段近くになった。一服、水を用意しておいてよかった。中性院なるお寺には、おびんづる様が正面に安置されている。なでるとボケ防止に効果があるとか。おばさんが「これだけはしておかないと。」と熱心になでていた。みんなになでられて、おつむがてらてら輝いている。もちろん私も格別丁寧になでなで。もっともお賽銭は上げなかったから、虫が良すぎたかも知れぬ。

ようやく気がつくと奥の院。如法堂と大仏殿。慈覚太師が持ち歩いた釈迦如来、阿弥陀様が祀ってある。階段は一番最初から数えても800数十段にしかならないように思う。大分さばを読んでいる。欲望、穢れが取りきれぬかも・・・・・。
奥の院より少し下がったところに、あの写真でよく見る崖の上の赤い建物、納経堂である。そして明王を祀る五大堂。とにかく絵になる。青い空、入道雲、遠くに緑に燃え立つ奥羽山塊、反対側の山の斜面に多くの洞穴。あの中でお坊さんたちは修行をしたのだろうか。
普通2時間かかるといわれているコース。1時過ぎには下に降りてきてしまった。「案ずるより生むがやすし」であった。普段少しは鍛えているつもりの足に感謝。
駅前の茶屋で力こんにゃくをからしをつけて食う。ここの名物だそうで櫛に三つ刺さって100円。それから作並温泉に向かったが、山寺の駅の待合室には、赤い髪や中国風など外人が目立つ。こんな山奥まで・・・・。彼らはどんな気持ちで登ったか。

翌日仙台に出たが、その発展振りに改めて驚く。6日からの七夕のため半分ほど飾りつけが進み、大層賑わっていた。一昔前と違って楽天イーグルスの応援ののぼりや広告が目立った。我々は、穢れがとれたか、取れないか分からぬまま、青葉通りや松島を楽しんだ。

〔後記〕インターネットで調べたところ、立石寺は、1950年頃、観光客の増加に伴って、交通機関として五大堂近くから麓あたりまで全長約300m、高低差150mの巨大滑り台を作ったのだそうだ。しかし滑り台の斜面の角度が、約30度ほどで加速がかなりつき、参拝客の尻が火傷したり、転落して負傷する事態が頻発するなど安全面で問題視され廃止されたとか。友人に山寺に登った、と自慢したところ、「エレベータはないのかい。出来たら行くよ。」とほざいた。人間の考えることは大体いつも同じか・・・・。
蝉の声がここでは凹凸のある凝灰岩に吸収されて穏やかに聞こえる、と説明しているサイトがあった。それならまさに「岩にしみいる」だが、音感の悪い私には分からぬ。

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