高等学校同期のAさんから「琵琶の発表会の切符がある。見に来ないか。」とのメールをもらったとき、とまどった。
琵琶、名前はよく聞く楽器だが、聴いたことはほとんどない。
そういえば昔、琵琶法師というのが居て、琵琶を弾きながら、平家物語を語り歩いた、という話を聞いたことがある。そもそも平家物語自体がそこからとったものだ、とも聞いた。小泉八雲の「耳なし芳一」も是にまつわる話である。
Bというご夫妻が演奏するらしい。お二人はもう何年もこのような演奏会を続けている様子。演目は小敦盛、白虎隊、夢、大徳寺などとあり、いづれも物語性のあるもの。語りを本当にやるのだろうか、とも考えた。
久しぶりに銀座に行く、ということでスーツを取り出した。自分なりにおしゃれをしているつもり・・・・・。会場の王子ホールは三越の裏にあった。立派な会場には200人近くの年配中心の観客がきていた。会場は松などの装置が飾られ、それなりの雰囲気を出している。
「小敦盛」
一の谷の戦に敗れた平家の公達はいっせいに沖に逃れようとしていた。そんな時武蔵の武将熊谷次郎直実は馬で海に乗り入れる公達らしい若者をみつけた。「敵に後ろを見せるとは卑怯、引き返したまえ、」と声を送ると引き返してきた。組み合いになりすぐに押し倒し、首を取ろうと兜を押し上げると、まだ15,6の若い公達、平敦盛と名乗った。其の日の朝の戦いで戦死した息子の直次郎を思い出し、助けたいと一度は沖の船に逃れさせようとするが、見れば背後には判官義経率いる味方の軍勢、逃れようもなく泣く泣く其の首を討ち取る。
私の母親がときどきこれにまつわる「青葉の笛」という唱歌を聞かせてくれたし、平家物語も読んだのでストーリーはよく知っている。それをご主人があの大きな琵琶を弾きながら、情感たっぷりに聞かせてくれる。
「白虎隊」
戊辰戦争で会津藩にも官軍が押し寄せた。会津藩はまだ予備軍であった14-17歳の少年隊まで白虎隊と名づけて出陣させた。しかし多勢に無勢、次第に追い詰められ、最後は飯森山に20人あまりが逃げ込む。鶴ヶ城に砲煙が上がるのをみてみな自刃する、というものである。
奥様が演奏。やはり語りが優れ、其の世界に観衆を引き込んでゆく。語りは普通に語っているようにも歌を歌っているようにも聞こえ、私は琵琶其のものより語りの練習の方が大変なんじゃないか、と思ったほど。またこの曲最後にはあの詩吟が飛び出す。
「南、鶴ヶ城を望めば、砲煙挙がる、痛哭、涙を飲んで、且つ彷徨す・・・・・」
当方目下練習中につき、聞き入った。
二つ終わって、休憩。Aさんが来ていた。今までに使った琵琶は薩摩琵琶、この次大徳寺で使う琵琶は筑前琵琶で幾分高い音が出る、等教えてくれた。
「夢」
荘子の思想を琵琶で語ったものとか。
夢の中で荘子は胡蝶になった。羽に任せてひらひらと大気の中をさまよう楽しさ、其の楽しみに耽った。ふと目が覚めると、私は現身の私にもどったが、夢の中の胡蝶は私が胡蝶になったものか、それとも胡蝶がわたしになったものか・・・・。そんなことらしいがよく分からぬ。この曲のみ睡魔に襲われ、私も胡蝶?「荘子」は読んだことがある。あの第2章の万物斉同論を言おうとしているのであろうか。
「大徳寺」
本能寺の変の100日後、法要が行なわれ、元老たる柴田勝家は自分が押す後継者織田勝家等とともに焼香しようとするが、中国攻めから取って返し、逆臣明智光秀をたおした秀吉が赤子ながら直系の三法師君を右手にいだいて登場。こちらが先、そちらは織田家とはいえ庶子の出、むしろ明智攻めに参戦出来なかったことを詫びるべきだ、などと主張。双方刀の柄に手を書ける事態となったが、秀吉は油断なく軍勢で寺を囲んでおり、勝家等は従わざるを得ない・・・・最後の台詞「越の淡雪もやがて消え・・・・」は勝家の滅亡を暗示するとか。
Aさんは奥さんと職場が一緒だった、とのことだった。「お稽古の発表というのは大変。この発表会も100万単位の大変な持ち出しらしいわ。」とも言っていた。しかし考えてみればそれも楽しいのとも考えられる。ことに荘子のような考えなら・・・・・。平成22年文化庁芸術祭参加公演、ご夫婦とも既に外国での公演を行ったり、受賞もされているらしい。趣味もここまで来れば・・・・・。
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