アパートの女性住人から、湯沸かし器がつかない、コントローラーを押すとE5のスイッチが点滅してしまう、というので井草ガスサービス店に来てもらった。湯沸かし器は屋外に設置され、風呂への落とし込みと洗面等に使っている。
すると「熱交換器が過熱して点滅したのです。交換しようと思ったのですが、93年製、もう部品がないそうです。」仕方なく交換することにした。
ガス湯沸かし器には色々思い出が多い。ガスの燃焼で発生した熱を瞬時に水に伝え、水を温める、それだけのことだが、中々奥が深い。
最初に湯沸かし器が出来た頃、胴にチューブが巻いてあるだけだった。しかしそれでは余り熱が伝わらなかったから、チューブにフィンをつけ、そこを燃焼したガスを通らせた。ラジエータの逆である。ガスが暖める面積が大きくなるから熱がよく伝わるようになる。
湯を沸かすだけの装置は色々な発展を遂げた。アパートのような使用方法もあるし、我が家はかってセントラルヒーテイングの熱源として使っていた。最近は太陽熱との組み合わせなども考えられている。そういうものが開発されるたびに小型高性能への需要が高くなった。より小さな空間で、より沢山のガスを燃焼させようというのである。本当は大きながらん胴みたいな昔風の湯沸かし器のほうが安全と思う。一酸化炭素中毒の元になる不完全燃焼も起こりにくいし、湯沸かし器の寿命という点からもいい。しかしそう言っていられなくなったのだ。幸い事故対策用に不燃防止装置等が開発され、機器自体も屋外に設置されるようになった。
伝わる熱はフィンの面積に比例する。そこで結局は細かい間隔でフィンをどんどん多く取り付けるようになった。チューブとフィンは蝋、つまりハンダのようなものでくっつけるのだが、チューブの周りに均一にハンダを回すにはそれなりの技術が居る。また実は湯沸かし器の形状も問題だ。初期の頃は排気口が少し狭まっているような胴が使われた。しかし炎が其の狭まった部分に当たって胴を過熱し、また危険な状態になってしまう。形、ハンダのつけ方、フィンの枚数、色々な工夫がそこには必要だ。
フィンは燃焼ガスから得た熱をチューブの中を通っている水またはお湯に伝えるから、決して過熱されることないはずである。しかしわずかでもチューブとフィンの接触すべきところが接触していないと熱はたちまち行き場を失い、フィンそのものを過熱する。フィンは薄い金属板だから見事に焼けてしまう。
それが時間をかけても起こることがないよう、湯沸かし器を出荷する際には耐久テストを行う。火がついたときに負荷が一番かかるから、つけては消し、消してはつける操作を何日も続け、それで異常が出るかどうかをチェックするのである。寿命と考える10年なら何回だ、と考えてテストを行なう。それでも時々事故は起きた。おきるたびに現場対策、原因追求などで裏方は中々大変な思いをしなければならぬ。
テスト期間について、湯沸かし器は、従来は家庭用で使うことを前提にしていた。朝晩煮炊きするたびに何度くらい湯沸かし器をつけるだろう、そんなことを前提にテストを行なっていた。しかしあるときこの湯沸し機を連ねて、牛丼の吉野家などに売り込みに行き、つけてもらった。
ところが2年もたたぬうちに壊れてしまった。よく調べてみると、ああいうところは、場合によっては24時間営業に近いことまでやっている。湯沸かし器は使いっぱなしである。家庭用の10年などという規準は甘すぎたのである。
スポーツクラブにつけてもらったときも失敗した。ボイラーは、あらかじめ温かいお湯があり、それと水をうまくミックスして蛇口に送る。それゆえ出湯温度は比較的安定している。しかし、湯沸かし器は、出てきたお湯の温度を検知してガスの強さをコントロールするなどする。うまく行きそうに見えるが、最初はものすごく熱いお湯が出る、それから急に下がり、また上がりを繰り返し、次第に安定した温度になって行く。
女性客が飛び上がった、ということであわてて改良!そんなことを何度も繰り返してから、今はきっとよいものになっていると確信するが・・・・。
井草ガスサービス店から若い男が契約のためにやってきた。「内胴を巻くようにセンサーがついており、それが過熱を検知すると、安全のために火を消してしまうのです。ところでお客様の機器は特殊な形、設置場所のパネルを替えないと入りません。もう18000円・・・・」いまいましい!誰だ、あんな湯沸かし器をメーカーに作らせたのは・・・・・。
業務用の湯沸かし器の開発を担当していた頃・・・・其の頃一緒に働いたメーカーのある技術者の訃報を郵便受けに見つけた。もう30年以上も前、なんとなく感傷的になる。
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