昨日の日経新聞の片隅に載っていた次の記事に気がつきましたか。
「東都大学千獄研究室では、安楽死の新薬を開発し実験中である。担当の大沢准教授によれば「スパゲッテイ人間になってまで生き続けたいと思う人は稀である。医療費等を負担する家族も大変だ。幸福な気分になって死に、気がついたら向こうの世界に行っている、そんな薬を開発し、今実験中である。」このような新薬が開発されれば、人間は死ぬ時期も場所も選択できるようになるかもしれない。ただ法制面を整備せねばなるまい。また生命の尊厳も、もう一度見直さなければならぬかも知れぬ。」
気がついたとき、私は自分の体に若さがみなぎっていると感じた。はねてみた。1mも跳ね上がったような感じがした。走ってみた。100mを10秒くらいで走れそうに感じた。そのまま走り続けると野球場があった。飛び込むとベンチ裏。監督らしい男が言った。「丁度いいところに来た。代打をやれ。」9回裏であった。味方は3対0で負けていた。しかし満塁であった。言われるままにバッターボックスに立つ。ど真ん中にものすごい速さでボールが投げられた。思い切り叩いた。ボールはどんどん上がっていった。そしてセンターバックスクリーンに吸い込まれていった。ものすごい喚声が沸き起こった。一周してもどると監督が抱きついてきた。選手たちが駆け寄ってきた。其の中で私は気を失った。
モーニング姿の私は空を飛んでいた。手を左右に広げれば実に楽に飛べる。ストックホルム、王宮、ホール、それが目的地。地上に降り立ち、私は何事も無かったように王宮に入って行く。沢山の人たちの視線を浴びて、あの電話がなり受賞を知らされたときが夢のようによみがえる。「あなたの業績に対してノーベル化学記念賞を授与する。」そんなことを言われたように感じた。首に金色のメダルがかけられ、賞状や賞品の目録が送られた。自分の席にもどるまもなく、再び私は王妃にエスコートされて壇上に立った。これから記念講演である。マイクが向けられた。其のとき分からなくいなった。何を話せばいいのか、何を研究したのか。ボケてしまったのか。気が遠くなってゆくのを感じた。
私は宝石のちりばめられた椅子に座っていた。壁には無数の美女たち、私から声をかけてもらうのを待っているようだった。よく見ると其の一つ一つの顔は見覚えがあった。昔の恋人たち、家族、学校で一緒だった者、職場で一緒だった者、外国で一緒だったもの、隣のアパートにいた娘、侍従長らしき男が駆け寄ってきた。「この中でお好みの者をお選びください。」私のあそこはとっくに見事に屹立しているように感じた。私は、一番美人で優しそうな女性を選んだ。「あちらにどうぞ・・・・。」と侍従長は真珠で飾られたドアをさす。彼女を連れてドアを開けると、花や宝石で飾られた部屋の真ん中に大きなベッドがあった。私は彼女とともにベッドに入る。彼女を抱き寄せる。体が溶けてゆくように感じる。しかし目を開けてもう一度彼女を見つめると、いつの間にか彼女の顔は年老いた妻のそれに変っていた。おまけに額に小さな角が生えていた。「最後にはこうなるのよ。」と彼女は憮然としていった。其のときである。私の体がどんどん彼女の中に吸い込まれてゆくのを感じた。ナントカしなければいけない。私は必死で抗った。しかしどんどん入ってゆく。「ああー。」無限に落ち続ける感触。
誰かがささやく声が聞こえた。
「これでは生き返ってしまうではないか。安楽死の薬を開発したのだろう。意味が無いじゃないか。何だって、まだ殺すには忍びない?そんなことを言っていて、医学は進歩しない。」「それにしてもこの患者の本当の夢は何だったのでしょうかね。スポーツで英雄になりたかったのか、ノーベル賞がほしかったのか、女が好きだったのか、患者の望むデータの入れようが無い。」「自分が一生かけてどんなものになりたいなんて、実は誰も分からないのさ。其のときの状況で考えているに過ぎない。」
それからまた私はしばらく自分が分からなかった。
気がつくと暗闇の中に置時計の文字、朝の4時10分、私のいつも起きる時間である。手足を伸ばしてみた。夕べのままの私である。あれは夢だったらしい。
夢という言葉には二つ意味があるように思う。現実に眠っているときに見る夢、これは意識化の何かしらが断片的に頭の中に現れる。断片的であるゆえ脈絡が無い。こういう夢を見た、と物語を書くものが居るが、皆、嘘と思っていい。もう一つは欲望そのものだ。若い頃の野球選手になりたいとか、政治家になりたいとか、あるいは学者になりたいとか、そういうものを夢と呼ぶ。そして後者が前者の中に断片的に現れることは当然であろう。
しかしそうだとして、私は一体どうなりたかったのだろう。そんなものは無かった、いろいろやっているうちに今の境遇にたどり着いた、というのが正解なのだろうか。
さて、みなさんはどんな初夢を見られましたか?
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