934「今は懐かしい奇人の部下」(1月27日(木)晴れ)

同じ会社に勤めていたAさんと新橋で昼食。私とほぼ同年だが、杖を持っていた。
「これがあると、断然楽です。しかしこれを持っていると、よほどおじいさんに見られるらしく女学生に席を譲られてしまいます。」
70歳前後、難しい年齢、休みたいし、余り年寄りとも見られたくない・・・・・。

新橋に新しく出来たビル。41F。バイキング。味はそれほどでもないが女性客で一杯。片隅で小さくなって一緒に食事。Aさんは機械屋で随分いろいろな地方で働いたらしい。
「大阪の商人というのは東京のそれとは随分違う。有るメーカーの男は、口では「へい、随分と勉強させてもらいます。」などといいながら、いざ注文の段になると「そな、端数だけ切っておきましょうか。」と渋ちん。しかし会社を辞めるときに呼び出されて言われた。「あなたにはお世話になった。これからずっとお歳暮を贈らせてもらいます。」「ずっとって?」「会社が続き、私が生きている限り・・・。」その後ずっと送ってくれていたが、最近訃報が入った。
業者とはなかなか人間としての付き合いはしにくい者。そういえば私も昔一緒に湯沸かし器の仕事をしていた男に訃報を最近もらった。
次々昔話に花がさいた。困った部下たちの話が面白かった。彼らは出世できなかったが、そのような社員が、今では人間味が感じられ、懐かしく感じるのかもしれない。

Aさんの聞いた部下の話から抜粋・・・・。
金持ち過ぎる社員も困ったものだ。あるとき其の男に収入を聞いたところ自分の係りの係員10人合わせたより多いようなことを言う。会社に勤める理由を聞いたが、言い草が気に入らぬ。「私の立場になってみなさい。金があっても、することがないから会社に来ているんです。」
緊急の用事があったので「これを明日までに仕上げてくれないか。」と頼む。すると彼は「そんなことをしたら僕は死んじゃう。ゴメンです。」と帰ってしまった。仕方なくAさんは、夜なべして行なった。翌日件の男にそのことを話すと、平然と「やれば出来るじゃないか。」
件の男はいつも身につけているものを自慢していた。腕時計は80万円、ネクタイピンは50万円という具合である。Aさんが、あるとき時計をどこかにぶつけて壊してしまった。其の話を件の男にしたところ「壊してもいい、と考える程度のものを、身につけるんです。」「じゃ、オレの場合は?」「そうですね。係長なら3万円というところですか。」自分の時計は実は2万円であった、とは言えなかった。
こんな男は、私の部下にもいた。皆からなんとなく浮いてしまう。賞与の査定でも「彼は金持ちなんだから、他の人に回してやろうよ。」と言われると譲歩せざるを得ない。

以下はAさんが「また聞き」した某氏の部下の話。
会社に来る人間は、みな出世、昇給を考えて一生懸命やる、なんて考えたら大間違い。ある部下は、それまでも「別荘に行っている。」などと称していたが、あるとき、数日音信がなくなった。家を訪ねたところ安アパート、いる様子も無いから仕方なく大家に了解を得て家の中に入った。別荘らしき住所を見つけ、そこをたずねると小さな観光会社で、彼はそこの社長、女子社員に囲まれて鼻の下を長くしていた・・・・・・。
これに近い社員は地方に行くと多い、と私も聞いた。ある会社では社員を二ランクに分けて採用する。一方は会社の要求があればどのようなことでもする、そのため出世は早い、他方は地元でのみ働く、意外に後者を希望する社員が多いそうだ。
別の部下は、朝晩、株屋に連絡を取り、売ったり買ったりしていた。あるとき忙しく朝から夕方までずっと会議であった。夕方、其の男が某氏言う。「今日はあなたの会議で忙しく注文が出来ず3万円も損をしてしまった。払ってください。」其の男は会社の仕事はきちんとやった。しかし何か達観した雰囲気を持っていて周りとうまく調和しなかった。
さすがにここまで言う部下を、私は経験したことはない。ただ部下が「困っている。」というので一緒に出かけていったところ、緊急を要する現場。件の部下は「係長、あとよろしくお願いします。用事があるので・・・・。」と帰ってしまった。

・・・・・優秀な社員というのは結局どういう社員なのだろう。よい上長、よい部下、よい同僚、それぞれ要求されるものは違うようだ。「部下は上長を3日もあれば理解できる。しかし上長が部下を理解するには3年かかる。」こんな格言を聞いたことがある。ここに述べたことは上長としての一方的発言、彼らは、私たちをどう見ていただろうか。また私たちも誰かの部下であった。上長は私たちをどう見ていたのだろうか。
夜中に会社時代の自分自身を反省してみる。私もいい部下ではなかったなあ。

註 ご意見をお待ちしています。
e-mail agatha@bekkoame.ne.jp
home-page http://www.bekkoame.ne.jp/~agatha