「今のドルは高すぎる。いずれ、ドルは1ドル50円にまでなる。」
と著者は予言する。アメリカの経済はITと金融が支えたが、崩壊してしまった。そこで2010年のオバマ大統領の一般教書では輸出立国を目指そうと露骨に言い出した。後押しするためにアグレッシブなドル安政策が予想されるだろうというのだ。この言が正しいとするなら、私も持っているドルの売却を考えねばならぬ。それが私に書店でこの本を選ばせた。
貨幣は、最初、石の塊であったかもしれない。交換価値だけがあった。
「持ち運びがしやすくなり、適用範囲が増えてきた。貨幣は通貨となった。
その通貨は「信用」と「金融」という二枚の翼を得た。
基軸通貨とは難しいが「一番強い国の通貨」「一番使われている通貨」と考えると分かりやすい。私の定義では「其の国にとっていいことが世界中にとっていいことであると言う関係が成り立っている国の通貨。」この基軸通貨をめぐって各国は激しく争った。
出発点は英ポンドであった。世界をまたにかけた通貨ポンドが誕生した。1694年にイギリス商人たちは、イングランド銀行が設立し、通貨発行権を掌握したが、一方で金融システムの安泰を保障する役を担わされることとなった。
シテイは繁栄を極めたが、大きくなりすぎ、第一次大戦はシテイが余りに国際的になったために、時には国益に反しかねないとの側面をのぞかせた。追ってくるアメリカに対抗するため、大戦中に中止していた金本位制の復活に動いた。其の頃は米国もフランスも金本位制であった。しかし世界恐慌の余波を受け、1931年に再び金本位制を廃止する。ついでアメリカ、フランスも一時的に金本位制を廃止するが、其の過程でアメリカの力が増した。
1944年のブレトンウッズ協定。基軸通貨としてのポンドは終焉を向かえ、ドルを軸としてIMFと世界銀行を両輪とするブレトンウッズ体制が確立した。1ドル360円がきまったのもこの会議である。ドルの黄金時代が続いたが、膨張した世界は明らかにアメリカが貯蔵する金以上のドルを世界に流通させ、それは結局ドルの暴落につながってゆく。
ついに1971年ニクソンは「ドルと金の交換停止」を発表。いわゆるニクソンショックである。1ドルは308円、270円、240円・・・・と円高が進む。ニクソンショックを機にアメリカを猛烈なインフレが襲う。アメリカは無限にお金の出る「打出の小槌」を捨てぬ。「パックスアメリカーナの維持」と「限りない成長を維持する」矛盾に気がつかなかったのか。
1985年のプラザ合意で「これ以上のドル高」を防止することで各国が合意。自国通貨について決定権が失われてゆくことを思い知らされる。ドル安が一気に進行したが、アメリカの対外赤字はとまらぬ。そして1987年のニューヨーク株暴落(ブラックマンデー)。幸いなことに、日本のバブルが、世界需要の上げ底をもたらし、危機は軽症ですんだ。
債権大国、日本の円は、気がつかぬうちに、「隠れ基軸通貨国」になろうとしている。しかし日本は大胆な構造改革を行ないえず、金融緩和に逃げた。超低金利政策をとった。これが円キャリートレードを生んだ。これがアジアのバブルもあおり、アジア経済危機も招来した。これが欧米に渡れば、債権の証券化という錬金術を生んだわけだから、リーマンショックの基本要因もまた日本にあった、ともいえる。
リーマンショック以後。アメリカではバーナンキがゼロ金利、徹底したドルのバラマキで対処しようとした。時代に逆行したもので、中央銀行が其の役目を放棄したとしか言いようがない。そしてこれが冒頭のオバマの一般教書につながると言う。
次の基軸通貨はどこか。
ユーロ。東西ドイツの統一、ヨーロッパの脅威が1993年に「マーストリヒト条約」を発効させたがギリシャ問題等まず内なる体質問題の改善が先で基軸通貨には期待できぬ。彼らの言う「成長に優しい財政再建」などありえぬ。彼らが狙うのは「ユーロ安」である。人民元も考えられる。しかし「上海にはからすがいない。」とささやかれるほどの激しい貧富の格差。それにもとづく社会情勢。国情を考えれば基軸通貨を目指すどころではない。
通貨問題の行方は下手をすると戦争につながりかねない。著者は、もはや基軸通貨の時代ではない。世界が参加する21世紀のあらたなプラザ合意目指すべきだ、とする。TPPはブロック経済化を推進するもので賛成しかねる。著者はその意味で地域通貨の復活を提案したい、としている。
以上のような論点であるが、注目したいのは行き着く先が40円、60円ではなくなぜ50円なのか、というところは分からなかった。若者の減少など日本の国力の相対的低下をどう考えるかも問題のように思う。また著者は1ドル50円とは言うが、豪ドルなど他の通貨について述べているわけではない。
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