笛吹けば人が死ぬ・悪魔のような女       角田 喜久雄


創元推理文庫 日本探偵小説全集3

沼垂の女
 昭和20年、終戦の年の12月、新潟の田舎に疎開している友人を訪ねた私は、沼垂(ぬったり)という駅で降りた。上野駅から一緒だったその女も同じ駅でおりた。実家が駅近くにあるという。旅館の看板のある家は、アメリカ軍に徴用されていると言うので、女の家で雨宿りさせてもらった。母らしい婆さんと二人、女の「夫は戦犯として処刑された、MPにいやらしい捜査をされた。」などと言う話を聞く。ところが帰りに道を教えてくれた道が、全く反対方向でひどく迷惑した。
 友人の話「母子の話はすべて嘘。あの旅館は使えたのさ。母子がびっこの男をくわえこんで殺した、という噂もある。」あの寂しげな女には隠れた意味があるようだ。(1954 48)

悪魔のような女
 県下に伝導に来た田崎神父は石狩波江から「志賀茂青年と長谷川初子さんの自殺事件について、是非お話ししたい。」との手紙を受け取り、その懺悔を聞くことになった。
 私は人が物を盗んだり、女を犯したりするのをみると何とも言えぬ楽しい気持ちになるのです。見知らぬ青年が会社の品物を盗み出して、評判の悪い古物商に譲り渡す現場を目撃しました。それが志賀で、その盗みを種に交際をせまり、結婚を約束するまでになりました。ところが私のアパートの隣室に美しい長谷川初子が引っ越して来て、志賀は彼女を愛する様になりました。嫉妬に狂った私は、彼女にガスストーブをプレゼントしました。ある寒い夜、ビタミン剤と称して彼女に睡眠薬を飲ませた後、共用のガス栓を閉めて開けると言う方法で殺しました。そうして志賀にしつこく結婚をせまり、逃れられぬ彼が苦しむ様を見て喜び、ついに自殺に追いやったのです。こんな私は許されるでしょうか。あのガス栓をためしてご覧下さい、ぎいっと音がしますよ。
 その夜、神父が共用ガス栓を回すと、波江の言ったとおりの音がした。翌日波江のガス中毒死体が見つかった。波江は、神父に人を殺すという罪業をおわせることに、無上の喜びを感じながら死んで行ったのだ!ポアロ・ナルスジャックの「悪魔のような女たち」もすごいけれど、自己の死まで楽しもうとする女の狂気には脱帽!(1956.12 50)

笛吹けば人が死ぬ
 岡田警部は、麻薬犯罪に関連して、占部高久を追っていた。たまたまその義妹三井絵奈をが「湘南海岸で高久に会わせる。」というので警部と出かけて行く。
 物陰から見ていると、絵奈と高久はボートで海にこぎだすが、高久が絵奈を襲い、二人は海の中に落ちるのが見えた。絵奈は救われるが、高久は行方不明になる。
 数日後、高久らしい水死体が上がるが、不思議に手首に縛られた後があった。しかし指紋は、彼が服役していた仙台刑務所で取った物と一致したため、高久として処理された。 実は二人の兄の進一が、昔仙台で服役したが、高久と名をいつわった。進一、高久両名に復讐したかった絵奈は、進一を襲い、縛ったまま海に放り込んだ。「高久と進一は仲が悪かったから、水死体が進一となっても、高久が殺人犯として追われる」というのが絵奈の読みだった。
 角田らしい論理でつめた感じの作品。しかし切れ味は十分に見えた。

・完全犯罪には、犯人の知能的な計画性と、完全に法網から逃されると言う二つの条件がいる(763p)
・(ハンメルンの笛ふきの話)誰がお爺さん(笛ふき)を縛ることができるの?・・・お爺さんは、ちゃんと、子供たちを誘拐して殺してしまってやろうと計画してたんだよ。それでいて、法律ではどうすることもできないんだよ。(765p)
・明石さんや警部さんにあすこへ来てもらったんだ。ボートの中の出来事を、まばたきもせず見守ってくれる人が必要だからさ。(774p)
* 証人を作る
* 憎みあう兄弟の殺人
* 完全犯罪
(1957.9 51)
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