枯草の根 陳 舜臣
講談社文庫
12月、戦後飛躍的に成功した席有仁が神戸に帰ってくる。
寒い夜、高利貸しの徐銘義老人が、自宅アパートで針金で首をしめられて殺された。
彼は、昔の席の知り合いで、地方政治家吉田庄造の黒い仕事のパイプ役をやっていたが、最近首になった。
その後がまに座った吉田の甥の田村が、青酸入りのウイスキーを飲まされ殺された。
田村もまた席の知り合いだった。
戦時中につぶれてしまった上海興祥隆銀行の役員で、今は五興公司の李源良が、ガス中毒で死んだ。
李源良は、役員時代に困っていた席に融資し、大変感謝されていた。
これらの死の謎に若い小島記者と、彼の拳法の師で中華料理店「桃源亭」を営む、自称漢方医の陶展文が、いどむ。
風邪気味だった徐は、その夜自室で李と中国象棋を楽しんでいた。
李がアパートの管理人に時刻を確認して帰った後、徐に恐喝文を書いた辻村という男が彼を訪問したらしいが、辻村は姿を消した。
相前後した頃、また中国象棋をしている徐の後ろ姿をコーヒーを運んできたウエイトレスが確認している。
辻村が訪問したときに徐は殺されていたが、殺人の嫌疑が掛かるのを恐れて、逃亡した。
犯人は李で、徐を殺害した後、いったん外にでて裏口から入り、徐になりすまし、コーヒーを注文し、ウエイトレスにその時点で徐が生きていたように見せかけたものだった。
動機は李は実は李源良ではなく、かって彼を操っていた秘書だった男。
男は事業が苦しく、戻ってきた席と近づきたかった。
昔の席を知っている男がいると、偽物とばれてしまうので徐と田村を殺した。しかし、陶に証拠をほのめかされ、自殺したものだった。
陶が、ウエイトレスの見た徐の鍵の位置が違う、タイプライターの位置が違う、外套が椅子の上にあったなど普段の几帳面な徐の性格に反していることから、偽物だと見破ったところが事件解決の鍵になっている。
日本の中国人社会の様子が面白い。
中国象棋の記述も興味があった。
解説にある作者の「推理小説私観察」なるエッセイに書いたという次の考え方をうなずかせる作品である。
「犯人が誰であるとか、どんな風に解決されるかと言った場面は、推理小説であるからには、最初から決定していなくてはならない。
だがその組立は、できるだけ必要不可欠の細い筋にとどめておき、
登場人物の分泌するものを、受け入れるスペースを残しておくべきであろう」