霧の子午線          高樹 のぶ子

中公文庫

学生運動華やかなりしころ、希代子は八重と新一郎を共有した
その後3人は別れ別れになったが、希代子は、新一郎の子光夫をうんだ。
八重との再会、自分の父親を明かせとせまる新一郎、音信不通だった新一郎からの突然の手紙、八重の不治の病、八重と妹和歌子の亭主耕介の残り火をかき立てるような不倫・・・
希代子の心は、新聞とテレビの世界でキャリアウーマンとしてバリバリ働きながら、ゆれる・・・・。

・クローン病だと教えられたのは、翌日になってからだった。
原因は未だに解明されない病気で、要するに腸がただれ、部分的に溶解し破損してしまう。
ショッキングだったのは、決定的な治療法がないために、今後もこうしたことが起こりうる、ということだった。(24p)
・体が記憶している者だって、少しずつ薄れつつあります。希代子だって、そうでしょう。多くの女たちは、ぴしゃりと後手に扉を閉めて、何もなかったように歩き始めるかも知れない。(128p)
・希代子は他の女たちのように過去の時間を後手に閉め、深呼吸をひとつして、新しいスーツや覚え立ての化粧で身を飾り、さっそうと歩き出せましたか?(129p)
・人生は不公平なものなの。差別された人間は、この差別は不服ですって、神さまに抗議した方がいいのよ。義足の青年がマラソンに参加したり、癌を宣告された病人が富士山に登ったりするでしょ。(213p)
・八重は、自分の裸の腹の上で、涙にむせていた光男の頭の重さを思い出していた。あのとき一瞬覚えた性的な感覚が、体内で絨毛のように成長していき、母親としての愛情になるような気がした。(216p)
・沢田八重って人のことを、私の人生の汚点にしたくないんです。主人の心の中でもし八重さんが輝いているなら、私の心の中でも、星のような存在であって欲しいんです。(267p)
・光夫と自分の絆を断ちきりたい衝動に揺さぶられていた。 より強い執着と別離の欲求が、混在してうごめくのを感じていた。(285p)